臨床薬理研・懇話会9月例会報告(NEWS No.494 p02)

シリーズ「臨床試験論文を批判的に読む」第18回
脂質異常症治療剤エゼチミブ(ゼチーア) IMPROVE-IT試験文献

2015年6月に大々的に発表された試験結果で、急性冠動脈症候群で入院した患者を対象に、シンバスタチン(リポバス, MSD)単独投与とシンバスタチン+エゼチミブ(ゼチーア、MSD/バイエル、腸管でのコレステロール吸収を減じる非スタチン剤)投与の心血管アウトカムに及ぼす効果を、1万8144人を6年間追跡してみています。

文献 Cannon CP et al. Ezetimibe added to statin therapy after acute coronary syndromes. New Eng J Med 2015; 372(25): 2387-97.(フリーアクセス)

その結果エゼチミブ上乗せ群は、絶対リスクで2%(NNT: 50)の心血管イベント減少のエビデンスが示されました。メルクはこの結果をもとに、エゼチミブの心血管疾患再発予防の追加効能をFDAに申請、この申請に対するFDA諮問委員会の評決は、賛成5、反対10だったこともあり、FDAは申請を却下しています。
前回の例会で、糖尿病治療剤(SGLT2阻害剤)Empagliflozinが、EMPA-REG OUTCOME試験で心血管イベント減少のエビデンスが得られたとして添付文書にこのエビデンスを盛り込むようサプリメンタリーNDA申請を行い、これを審議したFDA諮問委員会は12対11の僅差で企業の主張を認めたことで、FDAがどのような最終結論を出すかが話題となりました。今回エゼチミブのこの文献をとりあげたのには、そうした臨床試験結果と重要な追加効能との関係を考えたいとの目的もありました。

試験は、詳しくは10日以内に急性冠動脈症候群で入院した患者18,144症例での二重遮蔽、ランダム化臨床試験で、エゼチミブの上乗せ効果を検討しています。プライマリーエンドポイントは、心血管死、非致死性心筋梗塞、再入院の必要な不安定狭心症、冠動脈血管再生(ランダム割り付けから30日以降)、非致死性脳卒中の複合エンドポイントで、フォローアップ中間値は6年間です。結果は、エゼチミブ上乗せは、LDLコレステロールレベル低下を増強、7年時点でのプライマリーエンドポイントに対するカプラン・マイアーイベントレートはS単剤群の34.7%に対し、S-E群では32.7%でした(絶対リスク差2.0%ポイント; ハザード比0.936、95%信頼区間0.89-0.99; p=0.016)であり、心血管アウトカムを改善しました。あらかじめ特定した筋肉、胆のう、肝の有害作用とがんは両群で変わらなかったとしています。なおこの試験では、最終的に両群ともに42%の患者が何らかの理由で割りつけられた被験薬を継続していません。著者たちはアドヒアランスが向上すればより大きな臨床アウトカムのベネフィットが得られるだろうとしています。
諮問委員会で追加効能とすることに反対した委員は、今回の結果が、とりわけ1回の臨床試験結果で効能追加を支持するほどに説得力が大きいものではなく、また、得られた臨床的なベネフィットの大きさをみても、臨床的な意味があるとは確信を持てないことを理由としています。

心血管イベントを減少するエビデンスが得られ、それを添付文書に明記するかどうかは、極めて重要な事柄です。規制緩和で1回の臨床試験結果でも良いとされてしまいましたが、筆者は企業資金による1回の臨床試験結果でこのような重要なことを決めること自体に大きな違和感があります。

薬剤師 寺岡