甲状腺がん多発は被曝と関係ないとする「乳頭がんのサブタイプが違う」の非科学的論理(NEWS No.494 p05)

福島医大鈴木眞一教授の2つの論文に、甲状腺がんの異常多発が原発事故と関係ない、とする理屈が列挙されていることは、8月号で紹介しました。地域差がない、に対する詳しい批判は山本氏が8月号で、年令分布は先月号で林が批判をしました。

今回は、福島で発見された甲状腺がんの病理組織分類がチェルノブイリと違うから、事故と関係ない?について、考えてみました。この理屈は、鈴木氏のClinical Oncology[1]での論文では書かれていますが、ほぼ同じ内容を書いたThyroidの論文[2]では触れていません。

さて、福島で発見された甲状腺がんのほとんどが乳頭がんという種類ですが、鈴木氏はその乳頭がんのサブタイプがチェルノブイリと違うから被曝によらない、とします。「チェルノブイリと違い(福島では)ほとんどが古典的タイプの乳頭がんで、チェルノブイリ事故で放射線に誘発される典型的なsolid variantがなかった。」としています。

確かに、チェルノブイリでは、このsolidが報告により33.7%[3]や11.6%[4]となっています。しかし、福島原発以前の20歳以下の甲状腺がんの病理を集計したデータ[5]では3.5%であり「放射線被曝と関連のない国内でも若年者にみられる。」としています。

他方で、Pacini1997[6]はベラルーシとイタリア・フランスの小児甲状腺がんを比較して、そもそも「乳頭がん全体」が、前者で93.9%、後者で82.1%であり、有意にチェルノブイリ事故の方が多いと報告しています。そういう意味では、チェルノブイリでは、ほとんどが乳頭がんであることが 特徴であり、日本でも、先の事故前のデータでは79.4%ですが、福島では98.5%(2016年9月発表まで)で、明らかに事故前のデータより多いのです。

ここでもう一度整理しますと、鈴木氏の主張するように、solid variantは確かに、チェルノブイリでは多いが、多い順に並べますと「チェルノブイリ」>「原発事故前の日本」>「福島」になります。

しかし、乳頭がん全体の率で並べると、「福島」・「チェルノブイリ」>「原発事故前の日本」・「イタリア・フランス」となり、福島とチェルノブイリは似ていることになります。

以上より、鈴木氏の理屈は、とてもなるほどとは言えません。鈴木氏の主張を科学にしようとすれば、そのためのデータと分析が不可欠です。しかし、今回の両論文にもなんらデータは提示されていません。どうして、このような論文が査読を通過するのでしょうか?この雑誌に、ためしに投稿してみませんか?

[1] Suzuki S. Clinical Oncology 2016; 28: 263-271
[2] Suzuki S et al. Thyroid 2016; 26: 843-851
[3] Nikiforov Y et al. Cancer 1994; 74: 748-766
[4] Bozhok Y Cancer 2006; 107: 2559-2566
[5 ]菅間, 内分泌甲状腺外会誌2013; 30: 281-286
[6] Pacini et al. JCEN 1997; 82: 3563-3569

はやし小児科 林