介護保険改悪を端緒とする社会保障解体を許すな!(NEWS No.498 p05)

1 介護保険法「改正」案の閣議決定

政府は2月7日、介護保険法「改正」案の国会提出を閣議決定した。法案の柱は以下の5点。①療養病床の見直し(2018年4月)、②自立支援・重症化防止に向けた保険者機能の強化(2018年4月)、③地域共生社会の実現に向けた取り組みの推進(2018年4月)、④2割負担者のうち高所得層の負担割合の3割への引上げ(2018年4月)、⑤介護給付金への総報酬割の導入(2017年8月から段階的に適応)。高齢者、障害児者、子どもなど支援を要する者に制度・分野をこえてサービスを提供する「地域共生社会」の実現を掲げており、医療法、社会福祉法、障害者総合支援法、児童福祉法の「改正」も含まれる。

法案では、介護療養病床廃止までの経過措置期間を2023年3月末まで延長、転換先となる新たな施設類型の呼称は「介護療養院」(仮称)とした。介護療養院のサービスモデルとして、厚労省は要介護者の長期療養・生活の場となる「医療内包型」と、有料老人ホーム等の居住スペースと医療機関を併設する「医療外付け型」を提示している。

保険者である市町村に対しては、介護事業計画に自立支援・重症化防止に向けた取り組みの内容や目標の記載を求め、介護予防で効果を上げた自治体には財政面で優遇する規定を整備する。居宅サービス事業者の指定に関しては、市町村が都道府県に意見を提出できるようにして、都道府県が条件を付けることも可能にする。「小規模多機能型居宅介護」の普及を進めるため、「地域密着型通所介護」が介護事業計画で定める供給量を超える場合に市町村が指定を拒否できる仕組みを設ける。

利用者負担については、年金収入等340万円以上の者の負担割合を2割から3割に引き上げる。被保険者間での介護納付金については、加入者数に応じた負担(加入者割)から報酬額に比例した負担(総報酬割)に変更する。「共生社会」の実現に向けた取り組みとして、高齢者と障害児者を同一の事業所で受け入れる「共生型サービス」を介護保険・障害福祉両制度に位置づけるとしている。

2 医療・介護総合確保法ですでに利用者、事業者が苦境に

すでに医療・介護総合確保法として成立した改正介護保険法により、

①要支援者(現在約160万人)の訪問介護・通所介護利用を保険給付から外す、
②特別養護老人ホーム(特養)の入所資格者を原則要介護3以上の高齢者に限定する、
③一定所得以上の介護保険サービス利用者の自己負担を1割から2割に引上げる、
④補足給付の受給要件について資産なども勘案すること

などが2015年4月より施行(③④は2015年8月より実施)されている。このうち、①は、訪問介護・通所介護にかかわる予防給付から要支援者を外し、市町村事業である介護予防・日常生活支援総合事業に、2017年度までに段階的に移行させるものだ。総合事業には、統一的な運営基準はなく、現在の訪問介護、通所介護の報酬以下の単価で、利用者負担も1割負担を下回らない範囲で市町村が決めるが、ボランティアや無資格者を使って低廉なサービスを提供することが常態化しつつある。サービスの質の低下、劣悪な介護労働者の労働条件のさらなる引下げにもつながる。また、低い単価設定では必要な介護が保障されない要支援者が続出する。

④の補足給付は、特養など介護保険施設入所者や短期入所利用者に対して、食費や居住費を軽減するものだが、資産や非課税年金(遺族年金や障害年金)も収入と勘案されることとなり、収入が少なく住民税非課税世帯であっても資産があるため補足給付(軽減措置)を受けられない人が出てきている。世帯分離していても、別居の配偶者に所得があり課税されている場合は補足給付の対象外とされている。

さらに、介護報酬も、2015年改定で全体2・27%のマイナス改定となった。介護職員処遇改善加算の拡充分(プラス1・65%)などを除けば、基本報酬は4・48%のマイナス改定で、過去最大の引下げ幅。なかでも、小規模通所介護の基本報酬は最大で9・8%も引下げられ、特養も全体で平均約6%の引下げとなった。要支援者の総合事業への移行を見越し、要支援者の通所介護サービスは20%以上の引下げとなったほか、他のサービスについても、要介護1、2が要介護3以上よりも引き下げ幅が大きく、軽度者の冷遇があからさまだ。基本報酬の引下げで、多くの介護事業者は減収となり運営が苦しくなった。2015年の介護事業者の倒産は76件と過去最多を記録、中小事業者の倒産が目立ち6割を占める(東京商工リサーチ調べ)。倒産に至る前に廃業した事業者を含めればさらに大きな数になる。

3 公的サービスに依存させないという露骨な社会保障削減の意図

介護保険料の負担引き上げ、利用者自己負担増や市町村のサービス供給抑制の仕組みなど、利用者負担増と介護サービス供給削減の意図が露骨だ。介護サービス利用制限、介護難民増加、介護離職増加となるのは必至だ。
「地域共生社会」という聞こえのよい概念をもちだして、公的責任からの撤退を露骨に表明していることにも注目しなければならない。厚労省は「地域共生社会」の実現に向けた工程表を発表している。介護保険など公的サービスの担い手不足を背景に、住民や専門職を有効活用することが狙いだとする。小さな圏域ごとに生活課題を発見し、解決する体制づくりを市町村に求める。その体制づくりを促すため、社会福祉法、生活困窮者自立支援法などを順次「改正」する。「公的な福祉サービスだけに依存しない社会」を2020年代初頭には実現したい考えだ。塩崎厚労相は「地域共生社会は今後のさまざまな福祉改革のコンセプトだ」と強調している。また社会福祉法には、地域福祉の理念に「地域住民による生活課題の把握、専門機関との連携」を追加した。また、市町村の努力義務として「生活課題の解決に向けた体制整備」を規定した。
憲法25条に規定する社会保障に関する国の公的責任を投げ打って、介護保険と障害者総合支援法との統合も狙いつつ、制度横断的に社会保障を「合理化」し、地域住民の自助努力に委ね、市町村には社会保障の供給量の総量規制や介護費の抑制をさせる意図と思われる。介護の担い手もサービスも保障されず、介護保険自体の崩壊に突き進みかねない。
介護保険が社会保障削減の端緒となるが、介護、医療、障害者福祉も含めて分野横断的に社会保障削減反対の声を上げていかなければならない。

いわくら病院 梅田