いちどくを この本『本当に役に立つ「汚染地図」』(NEWS No.498 p07)

『本当に役に立つ「汚染地図」』
沢野伸浩 著
集英社新書 700円+税
2013年12月発行

福島原発事故後の周産期死亡の増加が、地域の放射能汚染と相関していることを示すためのデータを、ネットで捜している時に偶然知った本です。早速取り寄せますと、著者は京大原子炉実験所の今中哲二先生と共同研究もされた「地図データを駆使した防災研究の専門家」で、原発事故後米軍が実施した放射線実測値に基づいた汚染地図などを作成されています。私はその中で、被曝の規模を土地の面積だけではなく、被曝した人口を示していることに大変感銘しました。それは、私たちが主に明らかにしようとしている人体への障害と直接つながるものだからです。

例えば、福島原発事故はチェルノブイリ事故の10分の1だ、といわれます。しかし、表1のように、著者の計算では、被曝人数は1.1から4.9分の1なのです(ただし、チェルノブイリは、ロシア、ベラルーシ、ウクライナのみ)。

表1:チェルノブイリ事故は福島事故の何倍の規模か?

148万Bq/㎡55.5万Bq/㎡18.5万Bq/㎡3.7万Bq/㎡
汚染面積住民数汚染面積住民数汚染面積住民数汚染面積住民数
10.41.113.354.933.7

また、岩手から東京までの11都・県の被曝人口を、土地汚染を五段階に分けて、それぞれの面積と「按分人口」を計算した表が掲載されています。このデータを使わせてもらい、2月20日発表の福島県民健康調査の「本格検査」(二巡目)の甲状腺がん発見率と、汚染地域の人口比率との関連を見てみました。それが、表2です

表2

地域の汚染度と
人口比 1)
甲状腺がん
発見率 2)
オッズ比OR
95%信頼区間
下限値上限値
014.11
<=0.521.71.550.644.43
>0.544.33.161.229.6

1)  11.1万Bq/㎡以上の土地居住者の地域人口に占める割合
2)  福島県民健康調査2017年2月発表「本格」検査より被曝人口比が高くなると1.55倍、3.16倍に増え、>0.5では0より有意に発見率が高い

この表の「地域の汚染度」は2番目に低い被ばくの分類を使いました。一番低い汚染度の比率でも差が出ますが、人口按配が90%以上の高い地域がとても多いので、分類しにくいため2番目にしています。

被ばく人口比が高くなると、甲状腺がん発見率が、10万人当たり14.1、21.7、44.3と高くなり、最も低いところを1としたオッズ比は、1.55と3.16と高くなり、「>0.5」の地域ではその95%信頼区間下限値は1.22で、有意差が明白です(ただし、このデータでは、P4のように、1巡目からの期間を考慮してなく、するともっと明白になるかもしれません)。

この結果は、これまで医問研発行のニュースや単行本、学会などで山本英彦氏が発表してきた、甲状腺がん発見率と土壌汚染度や原発からの距離との相関関係と同様でした。

この本の表は、どこか公的な場所に発表しているか著者に聞こうと思って調べたところ、すでに亡くなっておられました。とても残念です。皆さんも是非読まれ、データの活用方法をご一緒に考えませんか。

はやし小児科 林 敬次