臨床薬理研・懇話会2月例会報告(NEWS No.499 p02)

臨床薬理研・懇話会2月例会報告
シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第22回
Adaptive ways(適応性のある手法)の臨床試験

前回例会文献で抗がん剤キイトルーダは、「第1相試験」(Keynote 001試験)で550症例(うち未治療患者101症例)の大規模な第1b相試験を行い、その結果に基づいて前回取り上げた第3相ランダム化比較試験につなげ、効率的に開発を進めていることがわかりました。「550例の大規模な第1相試験」とは、これまでの伝統的な臨床試験プロセスとは大きく異なる、Adaptive ways(適応性のある手法)の臨床試験です。
Adaptive design clinical trials(CTs) については、米国FDAが2010年に企業に向けたドラフトガイダンスを通知、欧州AMAも新薬アクセス改善のための規制プロセスに組み入れています。今回は、このデザインがよく用いられる抗がん剤開発に関し、次のレビュー論文をとりあげました。
Iasonos A &; O’Quigley J. Early phase clinical trials -are dose expansion cohorts needed?
Nat Rev Clin Oncol 2015; 12 (119: 626-8.
著者は米国のメモリアルスローン・ケタリングがんセンターとフランスのピェール&;マリー・キューリー大学の研究者です。dose expansion cohorts(DECs)とはキイトルーダの例にもあるように、第1相の安全性試験に加える、中間結果をみながら投与量や薬剤を変え、最も有望な薬剤や用量を探るための患者集団(コホート)を指しています。
古いパラダイムでは第1相は、異質の小さな患者集団で、第2相試験に入る際の安全な用量を決定しました。しかし、多数の有望な医薬品候補を早くかつ迅速に臨床試験でテストすることが求められ、現在では技術の進歩がそれを可能にしたものです。さらに遺伝学の進歩は分子の特徴に基づいて特異的なサブ集団に対する臨床効果を高めることを可能にしました。そして安全性とともに有効性の予備的なエビデンスが得られる大きな患者集団による第1相試験となったものです。具体的には最大耐用量(maximum tolerated dose: MTD)を決定し、続いてdose-expansion phaseで推奨用量などを決定します。MTDは、従来の単純な3+3デザインを用いてドーズエスカレーションをガイドする第1相試験で得られるよりも、より緻密なMTDの推定値をもたらします。課題は最少の資源を用いて、どの医薬品がどの患者集団でベストか同定することです。DECsのための患者適合基準はしばしば狭く、焦点は特異的な分子的特徴、疾病タイプ、ないしその両方です。
この論文を離れますが、Adaptive design CTsは、最近のエボラ危機における試験方法の焦点として注目されました。エボラ危機では、ランダム化試験(RCT)の可能性について激しい論議がありました。カナダブリティシュコロンビア大(公衆衛生・臨床疫学・生物統計学)のKanters Sたちは、ランダム化と対照群は必要、しかし標準RCTは適切でなくAdaptive RCTこそ が適切とし、得られる科学的知識を損なわずに、効果の薄い治療にさらされる患者の数を減じることができると述べています。イタリア国立研究機関のLanini Sたちも、エボラの場合でも最初の段階からadaptive RCTを適用するのがよいとし、adaptive RCTだけが解決の方向で、エボラ危機でのチャレンジはRCTを用いるか用いないかではなく、どのようにしてRCTの効率を増し望ましい答えを早く出すことにあるとしています。EMA(2007)も「adaptive designsは、困難な実験環境に立ち向かう必要がある地域で臨床試験をプランする際のツールとして最善に用い得る」と記していました。
このようにAdaptive CTsは、対象が比較的短期(1-2週間)で有効性の見通しが得られる疾患に限られるようですが、中間解析結果で試験デザインを柔軟に変えていく手法で、比較試験において目的の被験薬の症例数を増加させ、プラセボの症例数を減じ、数少ない症例で早く結果を出すなどが期待される手法のようです。例会でも引き続きAdaptive CTsの実例文献などをとりあげていくことになりました。

薬剤師 寺岡