EBMの前進:WHOタミフルを重症患者に限定使用、に格下げ (NEWS No.502 p01)

6月6日に発表されたWHOが世界中で使用する基本的薬品リスト1)の中で、これまで「中核的薬剤」とされていたタミフルが、「補助的薬剤」に格下げされました。しかも、使用は入院・重症に限るとなっています。
このことが英国医学雑誌BMJ2)に載っていることを、読者の方に教えてもらいました。この中で、BMJの編集長は、臨床試験データの入手と独立したレビューへの闘いの一里塚、と述べています。
今回のWHOの決定は、医問研の運動によって公表された3)日本小児科学会の見解と似ています。重症に効くとの確かな証拠もないので、使用を重症に限定することは妥協の産物かも知れませんが、重症はまれですから重篤な副作用をほぼなくせます。
ご存じの様に2009年インフルエンザ・パンデミックの最中、米疾病管理センターCDCを先頭にWHOも含めてほとんどの政府・国際機関は抗インフルエンザ薬を推奨しました。
しかも、EBMの砦であるコクランレビューも、備蓄や臨床使用の根拠である入院や肺炎を防ぐとしていたのです。タミフルを使用していない医問研の仲間は窮地に立ちました。
ところで、コクランレビューにはその結論などへの反論を「Feedback」する制度があり、すでにインフルエンザワクチンでFeedbackが掲載されていた私は同年7月に投稿しました。内容は、このタミフルのレビューに採用した文献には、タミフルの製造販売企業ロシュ社の内部資料的な怪しい文献も入っており、それを除けば、統計的有意のある効果はないこと、ロシュ社から利益を受けている著者達の文献が使われているなど、データが信用できないとの指摘でした。
このレビューを率いるT・ジェファーソン氏は、このFeedbackに応じレビューの再検討を開始、正確なレビューにするためにロシュ社に元データの公開を要求しました。ロシュ社はそれを拒否、コクラン・BMJ・英国営放送BBCなどがデータ開示運動を展開して公開させ、EBMの「革命的」4)前進を勝ち取りました。そのデータも含めて、浜六郎氏も参加したレビューが現在のものです。
その結論に基づけば、タミフルは「中心的」薬剤ではないことが明白になったため、WHOのエッセンシャル・ドラッグが改訂されたのです。
最後になりましたが、WHOはパンデミックと季節性インフルエンザの「管理のガイドライン」からタミフルなどを削除することも示唆しています。
今回のWHOの改訂は、コクランなどのEBMを発展させようとする世界の仲間と協力すれば、EBMをゆがめる製薬企業との闘いに勝利できることを示した大きな成果です。

はやし小児科 林

1) WHO Model List of Essential Medicines 20th List (March 2017)
2) Kmietowicz Z. BMJ 2017; 357 J2841 doi: 10.1136/bmj.j2841
3) http://ebm-jp.com/2016/04/report20151102/
4) ベン・ゴールドエイカー「悪の製薬」青土社2015年