福島県県民健康調査の疑惑が発覚(NEWS No.500 p01)

福島県県民健康調査で発見された甲状腺がんは2016年12月現在で、1巡目の115人と2巡目の69人、合わせて184人となったことは既にお伝えしました。
ところが、この検査実施スケジュールでは多数の甲状腺がん症例が漏れる可能性があるとの、重大な問題点が発覚しました。

1.「経過観察等」を検診から外す

「3・11甲状腺がん子ども基金」によれば、以下のことがわかりました。事故当時4歳だった男児が、1次検査で「検査異常」のため2次検査に回されましたが、がんではないとのことで「経過観察等」になりました。すると、健康調査の枠組みから外され、その後がんが発見されたにもかかわらず、そのお子さんはがんとしてカウントされていないことが判明したのです。
このように「経過観察」になった人は、1巡目(先行検査)で1260人、2巡目で1207人、3巡目で56人、合計2523人に上ります。1)
「経過観察等」の人は、福島県県民健康調査の「資料」2)の図「検査の流れ」では、「次回検査」に回されるようになっています。ところが、同じ資料には「概ね6か月後または1年後に再診するなど通常の診療に移行した者」としています。これもヘンですが、今の検査システムでは、がんが見つかっても検診によるがんの発見にカウントされないように画策されていた可能性があります。

2.山下俊一氏らによる、検診でがんの発見を減らす細工か?

実は、福島県県民健康調査を策定したと考えられる、山下俊一氏などはこの「経過観察等」のグループから多数のがんが発見されることを知っていたのです。彼らは、福島での「経過観察」と同様のチェルノブイリでの集団からどれだけのがんが発生するか、との実験を実施し、医学論文3)として発表しています。
論文によれば、1991-2001年のチェルノブイリの検診で、がんではなく硬結をもった160人を、2009年から2010年の間(約14年後:中央値)に再度検査して、その中から7.5%もの「がんないしがん疑い」を発見(硬結なし群では0人)し、「硬結を有することはがん発生の潜在的な危険因子であることは否定できない」としています。
この実験は福島の検診と比べ、いくつかの相違点(下記補足参照)はありますが2次検診でがんでないと判断された硬結を持つ「経過観察等」の人から多くのがんが発見されることを示しています。
このデータを福島県県民健康調査に当てはめますと、これまでの「経過観察等」は2523人ですから、その数%のがんが8-19年後に発見されると推定されます。
山下氏らは2012年6月にこの論文を投稿していますから、それ以前にこれらのことをわかっていたはずです。検診計画策定時にこの群を検診から外したことはがんの過小評価を意図していた疑いが濃厚です。

1)http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2108
2)県民健康調査「甲状腺検査」結果概要
3)Hayashida N et al. PLOS ONE 20012; 7; e50648

<補足>

山下らのチェルノブイリの研究論文は以下の点で、福島県県民健康調査と違うため、彼らの論文から、福島での「経過観察等」の人たちから何人の甲状腺がんが発見されるかの詳しい推定はできません。
しかし、「経過観察等」とされていた人から、多くのがんが見つかる可能性が高いことは明白です。

「両者の主な相違点」
穿刺した硬結の大きさは1cm以上の全てと、5mm以上の一部。(福島は5mm以上でエコーでも疑いあり全例を穿刺)
160人中、穿刺での「がん」は3人、「がん疑い」が9人、うち「がん疑い」の4人が手術されてがんは1人、他の5人は手術での確定をしていない(福島ではほぼ100%ががんだった)。そのため論文でのがんは160人中4-9人、2.5%-5.6%が推定される。
年令分布は、1巡目約15歳、2巡目29歳で、福島と相当違う。(福島1巡目は0-18歳)
「経過観察等」にのう胞が入っていない。しかし、福島でものう胞はわずか0.5%以下(「先行)12/2287、「本格」で6/2224」)であり、無視できる。