事故時の甲状腺内部被ばくの予防 安定ヨウ素剤(NEWS No.502 p04)

放射能汚染から甲状腺被ばくを防ぐため、3歳未満の乳幼児に飲ませる安定ヨウ素のゼリー製剤(日医工)を、自治体が購入を希望すれば、7月から入手できるようになりました(東京新聞4月28日朝刊)。
昨年の3月に日本医師会は、「原子力災害における安定ヨウ素剤服用ガイドライン」を策定しました。その中で経緯について、東電福島原発事故により緊急時の情報提供体制の不備、避難計画や事前準備の不足、対策の意志決定の不明確さなど、従来の防災対策での多くの問題点が明らかとなりました。また災害は施設周辺のみならず、広く都道府県に影響が及ぶことも想定し、医師会員が配布等の速やかな対応ができるように作成されています。

幼児用

大人用

ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料なので、人間にとっては大切な栄養素です。原子力施設から放出された放射性ヨウ素が、呼吸や飲食物を通じて人体に取り込まれると、その10~30%は24時間以内に甲状腺に集積します。甲状腺は被ばくにより数年から数10年後にがんなどを発症します。安定ヨウ素剤を服用すると血液中のヨウ素濃度が上昇し、放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みを抑え予防します。暴露前の24時間以内の服用で効果がみられます。

服用回数は原則1回で、複数回の連続服用は避けます。副作用は、チェルノブイリ事故後にポーランドで服用した約3万4千人では、後に残るものはないとされています。過敏症など服用不適や慎重服用に該当する人には注意が必要です。
原子力規制委員会による安定ヨウ素剤の服用方法は以下のようになっています。原子炉の半径概ね5㎞の区域内(PAZ)は、国の原子力災害対策指針により事前にヨウ素剤が配布されることになり、その区域のある鹿児島、福井、愛媛、北海道、京都、佐賀の各自治体はすでに配布をしています。また原発の概ね30㎞圏内(UPZ)は事前配布でなく、保健所などの保管施設に備蓄しますが、事故後の混乱の中で取りに行くことに無理があるとの意見があります。

6月5日の第27回福島県検討委員会で、福島県の小児甲状腺がん・疑いは191人、手術例は153例と増え続けています。事故直後に適切な安定ヨウ素剤の投与があれば、ポーランドの例からも防げた可能性は高いでしょう。
原発の再稼働が進む中、現在の生活に安定ヨウ素剤の知識は不可欠です。しかしこの薬で防げるのは甲状腺がんだけです。本当に健康を守るには、原発をなくし再生可能できれいなエネルギーの電気に早く切り替えることでしょう。

入江診療所 入江