いちどくを この本『フクシマ6年後 消されゆく被害―歪められたチェルノブイリ・データ』(NEWS No.503 p07)

『フクシマ6年後 消されゆく被害―歪められたチェルノブイリ・データ』
日野行介、尾松亮 著
人文書院 1800円+税
2017年2月発行

日野行介氏は毎日新聞記者で、その著書を通じてご存じの方も多いと思います。「この国の政府が、原発事故の実態に沿い、被災者の意志を尊重した政策をとっているのか、また誠実に遂行しているのか、という観点で報道を続けて」きて、その中で「チェルノブイリではどうだったのか」「政府はこの知見をどう扱ってきたか」をテーマに、尾松亮氏と2013年夏に出会うことになります。

尾松亮氏はロシア大学文学部大学院への留学経験があり、「大惨事と向き合い続け」「チェルノブイリ被災者の保護制度を調査」されていました。「(2011年11月に)チェルノブイリ原発事故の国家補償法、いわゆるチェルノブイリ法を日本に紹介し、’12年6月に全会一致で成立した議員立法『子ども・被災者生活支援法(以下、支援法)』を生んだ人」で、著書に「3・11とチェルノブイリ法―再建への知恵を受け継ぐ」、共著に「原発事故 国家はどう責任を負ったか―ウクライナとチェルノブイリ法」があります。

6月5日、福島県県民健康調査第27回検討委員会は本年3月31日現在、穿刺細胞診で甲状腺がん細胞が検出され「悪性または疑い」とされたのは191人、手術を受けたのは152人と公表しました。112人が「悪性または疑い」であった‘15年3月、「わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い」と認めたものの、同委員会甲状腺検査評価部会「中間とりまとめ」での「放射線の影響とは考えにくい」との判断が、その後も撤回されないでいます。この判断根拠となっているのがチェルノブイリ事故との比較です。

①チェルノブイリでは4~5年後甲状腺がんが多発 ②チェルノブイリでは事故時5歳以下の層に甲状腺がんが多発
③福島県では被ばく線量がチェルノブイリ被災地と比べてはるかに少ない

「チェルノブイリ被災国が提示するロシア語原文の資料と、付き合わせての検証作業をはじめた」尾松氏は、’11年刊行の「ロシア政府報告書」を「無視できない検証力のある資料」として取り上げます。「健康被害を積極的には認めない、きわめて保守的な論調に見えた」報告書には、「『チェルノブイリでは』」と検討委員会が提示する説明と、いくつかの点で明確に食い違う事実が示されていた」のです。本書の第2章「歪められたチェルノブイリ甲状腺がん」に詳述があります。

「国が原発事故のリスクと被害者の権利を認めて支援するという根本思想が土台にある」支援法が理念法にとどまらず、子ども、被災者の立場から具体化されていれば、本年3月末での住宅支援打ち切りや年50mSvの被ばくを容認する避難指示解除の政策は出現しなかった筈です。ロシア語圏でない私達を乗り越えて、この法律が何故そして、どの様な力によって骨抜きにされたのかが、第3章「日本版チェルノブイリ法はいかに潰されたか」で展開されています。

真実を知ることを阻まれるなかで、「民主主義」は成立するのか?と著者たちは訴えています。

小児科医 伊集院