環境省:周産期死亡率増加のScherb論文対策「研究」に多額予算(NEWS No.504 p05)

平和と民主主義をめざす全国交歓会が環境省・厚労省と交渉した際に、医問研会員の森・林も著者であるMedicineに掲載されたScherb Hagen et al.の周産期死亡率の増加論文(以下、Scherb論文)を示し、それに対する見解を求めました。回答として出してきたのが、環境省「平成27年度放射線の健康影響に係る研究調査」の報告です。

これは環境省が、1)放射線被ばくの線量評価に関する研究、2)放射線による健康影響の解明及び放射線以外の要因による健康リスクを含めた総合的な健康リスクに関する研究、3)放射線による健康不安対策の推移に関する研究、4)福島県内外での疾病罹患動向の把握に関する調査研究、というテーマで各千万円以内の研究費で「公募」したものです。

周産期に関するものは4)であり、この研究の募集にあたり「……福島県の疾病罹患の動向を把握している専門家が参加している研究課題を優先的に採択します」となっています。これでは、福島医大など原発ムラの研究を採用します、と言っているようなものです。

案の定、周産期に関連しては福島医大教授高橋秀人氏が採用されています。27年度報告はごく簡単な「分析?」だけです。28年度報告には、もう少し詳しく報告されていますので、これを紹介します。

記載された参考文献5件のうち、論文はScherb論文だけで、4件は元データです。したがって、この「研究」はScherb論文対策と言えます。にもかかわらず、この「研究」は、先行するScherb論文の検討を全くしないままに、全く別の分析方法を使用しています。このような研究報告は、科学的研究報告論文では全く受け入れられないものです。先行する研究を踏まえて、より良い分析方法を用いたり、足りない点を埋めるために何をしたのかを明確にしなければなりません。

以下、この研究報告に対する林の個人的見解を簡単に書きます。
1)日本全国のデータ以外は、研究対象とした県を個別に統計処理しています。各県の周産期死亡数は比較的少ないために、統計的有意差が出なくなります。
2)Scherb論文では、2001年から2015年の観察結果ですが、大平は2005年から2015年に縮めています。その理由については何ら言及していません。
3)福島県だけの観察で増加が認められないとしています。しかし、Scherb論文への批判に対する’Authors’ reply: Letter to the Editor by Noboru Takamura et al.: Increases in perinatal mortality in prefectures contaminated by the Fukushima nuclear power plant accident’で、福島県だけの1995年から2015年までの死産を分析し、オッズ比1.331(95%CI: 1.085 to1.633),p-value0.0061で2012年1月に上昇していることを示しています。同じようなデータからの分析ですからどうして黒が白になったのかに言及する必要があります。
4)選んだ県の違いについて、どのような基準で選んだかが全く書かれていません。報告書によるスペースの問題化と思いきや、周産期に関する文章はわずか1ページ強なのに、同図表に12ページも使っています。

環境省が、このような多額の予算をつかってScherb論文を否定するかの「研究報告」をすることは、周産期死亡率の増加という事実を、甲状腺がんの異常多発と同様、覆い隠す必要があるとの認識を示しており、逆にScherb論文の影響力が増大していることを実証しているものと思われます。

はやし小児科 林