高橋論文に見られる4つの作為について(NEWS No.505 p06)

医問研ニュース8月号で林氏より報告のあった周産期死亡率増加のScherb論文に対する高橋論文の批判をさらに展開します。すでに、林氏が指摘をしていることを踏まえて、少し具体的に説明したいと思います。

1)全区間から検出するという作為

Scherb・森・林論文では、まず大きな変化のある時期を統計的に捜して、その時点を境に前後での回帰曲線(いわゆる傾向)を比較して、統計的に有意な変化があるかをみています(図1、実線)。これに対して高橋論文は全区間の回帰曲線(点線)に対して、有意な変化のある月だけを検出するという方法を採用しています。全区間の回帰曲線を基準にすると、ある時期以降の増加傾向が織り込まれてしまって、有意な増加がかき消されてしまう問題などがあります。

2)県ごとに分けるという作為

岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬6県の周産期死亡数は年間約700から約400に減少してきています。400という出現数の95%信頼区間は400±40で10%を超える変動を有意差ありと判定できることになります。県ごとに分けると70前後の数になります。70の95%信頼区間は70±16.7で、24%を超える変動が無ければ有意差ありと判定できないことになります。県ごとに分けるというのは出現数を少なくして有意差が出ないようにしているということです。

3)2005年からのデータを使うという作為

福島県単独の周産期死亡率の2001年からの月次経過を図2に示します。2012年1月で区切ると回帰曲線の上昇(21%)を認めます。2012年1月から2015年12月までの周産期死亡数は262人(95%信頼区間230~294)で期待される周産期死亡数217人を上回っています。
全期間を基準にしても2011年の有意な減少、2012年の有意な上昇がありそうです。
問題は当該論文では2005年1月からの分析をしていることです。このデータに改ざんはありませんが、2005年4月と6月と極端に低い値となった直前の時期から開始し、2011年12月まで増加傾向を示すことで2012年1月以降の増加を隠しています。
そもそも、減少傾向にあるべき周産期死亡率が福島県では上昇傾向にあったということ自体が胡散臭い分析です。

4)岩手県を除くという作為

岩手県の月毎の周産期死亡率の推移をみると、2012年に3回の大きな上昇が見られます。自説に都合が悪いので削除した疑いがあります。

保健所 森