臨床薬理研・懇話会9月例会報告(NEWS No.506 p02)

臨床薬理研・懇話会9月例会報告
シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第29回
リアルワールドデータの定義

医薬品の安全性有効性の評価にリアルワールドデータ(RWD)活用への傾斜が進む米国FDAですが、「RWDの活用に熱い目が注がれているが、リアルワールドエビデンス(RWE)が何を意味するか混乱がある」とし、JAMA誌2017年8月22/29日号にRWD, RWEの手引書 (primer)を掲載しました。「多面的なエビデンス生成とFDAの行政方針の決定 RWDの定義と使用」がそのタイトルです。

電子ヘルス記録、administrative claims (適当な訳が思いつきませんが、日本の診療報酬請求のレセプトデータのような保険償還請求データのことでないかと思われます)、ソーシャルメディア、スマートデバイス(スマートフォン、タブレットなど)の広範な使用は、これまで広く用いられてこなかった「ビッグデータ」を作り出しています。エビデンス生成は多面的であり、データソース、研究デザイン、プラグマティズム(実用主義)などの要素を含んでいます。

RWEは研究デザインとは独立して、データソースとプラグマティズムの程度によって定義されます。RWEの生成はそれ故に観察研究に限定されず、臨床セッティングで行われたランダム化比較臨床試験(RCT)も含みます。RWEの魅力には2つの面があります。ひとつは大規模なRCTに基づく現行の臨床試験実施は時間がかかり、厄介 (burdensome)で高価です。RWEはコストセイバーとして期待されています。2つにはその高度にプラグマティックな性格により、一般化(普遍化)がされやすいことです。

RWEはデータソースが日常のケアであり、デザインが高度にプラグマティックすなわち試験デザインと実施が、実地診療におけるプロダクトの使用をめざしているなら、どんな試験デザインからも生成します。それゆえ、ヘルスケアシステムの中で行われるRCTはRWEのソースとなります。

RWDは日常的に生成し、またヘルスケアデリバリーの過程で集められたデータで構成されます。

NIHが資金を出している前向きの観察研究(例えばフラミンガム研究)は臨床ケアで集められない豊かなリソースを提供しますが、この点でRWDとは考えず、プロトコールにより義務的に集められたレジストリデータもRWDとは考えません。

RWDは伝統的な臨床試験での効率とコスト削減に用いることができます。

FDAは2018年度末までにステークホルダーとのパブリックワークショップを開催、RWDの行政方針決定への活用をめざします。パイロットスタディ、方法論開発プロジェクトの実施などを行い、2021年度末までにRWE活用のドラフトガイダンスを公表するとしています。

このようにこの手引書でのFDAのRWD, RWE利用への観点や計画は比較的穏やかです。しかし手引書にも「FDAは最近安全性監視と希少疾患医薬品の開発にRWEを用いており」とありますが、この「希少疾患医薬品開発」などで、対照群・ランダム化・遮蔽化などRCTのもとになった考え方を否定し、従来のものに代替が可能かの検証なしにRWE「活用」を強引に進めようとしているなど、科学的エビデンスに基づく行政との方針に反する動きがあり、警戒が必要です。

薬剤師 寺岡章雄