日本学術会議、臨床医学委員会報告は科学の否定(NEWS No.507 p01)

「日本学術会議臨床医学委員会」は、「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」という「報告」を発表しました。この委員会の副委員長はかの山下俊一氏であり、原発推進派の意見を日本学術会議の名で報告したとも思える内容です。全体的を通じて、福島原発事故での被曝はとても低い、被曝による何の被害も出ていない、あるのは心理的問題だけとするものです。
この「報告」全体に対しては京大名誉教授山田耕作氏や渡辺悦司氏が詳しく批判されています。ぜひ、両氏の批判文をお読み下さい。

私たちも、高松氏を中心に日本学術会議のこれまでのこの問題に関する対応の全体像を調査しているところですが、今回は妊産婦の問題について述べます。
この「見解」は、(福島原発事故は)「死産、早産、低出生児体重及び先天異常の発生率に影響が見られないことが証明された」「実証的結果を得て、科学的には決着がついたと認識されている。」としています。
「決着がついた」とする根拠は、なんと福島県民健康調査の、妊娠後母子手帳を受け取った妊婦に対する郵送などによる、回答率50%前後のアンケート調査と、横浜先天異常モニタリングセンターの「仮資料」のみです。

少し詳しく検討します。流産、死産、先天異常は多くの両親にとっては、他人から触れられたくないことです。そのため、質問に応じられない方々は多数いると予想されます。にもかかわらず50%集まったことはこの調査により、被曝に関する科学的な回答を求めた人が多かったとも考えられます。しかし、福島県・政府は、福島では健康には何の影響もないとして、強い汚染地域への帰還を半強制しています。
回答率は減り、3回目は1回目より10%程低下し、その後の「フォロー調査」に至っては、回収率は3割台です。福島県が、29年度より「妊娠結果が流産、死産である場合の対象者の心理的負担を考慮したため」「流産・死産」の質問を一部削除せざるを得なかったのはこれまでのアンケートの正確性への疑問を明らかにしたようなものです。このアンケートでは流産は100人に1人未満、先天異常は2-3人です。異常のあった人の何割かが返答しなければ、その率は大幅に低下し、全国とかわらない、との結果になります。

それに対し、周産期死亡はすべてが届け出の義務を負っている正確なものです。それが増加しているとのシェアプ論文らを、「報告」は全く無視しているのです。

もう一つの根拠も、先のアンケート調査の2011度分をまとめた論文です。この論文、実は2011年の先天異常率は全国平均より統計的有意に18%も多かったにも拘らず、なんの考察もせずに、その増加を否定しているものです。残りの引用データは先天異常の全国調査「仮資料」のみです。

科学的根拠も全く示さないで、「科学的に決着がついた」などとしている学術会議の「報告」は、学術会議の科学性を奪い去ったと考えられます。

(はやし小児科 林)