フィリピンの貧困地区にある未就学児通園施設 AKCDF Preschool Learning Centerの入園児健診の分析(医問研ニュース500号記念シンポジウム発表者報告その1)(NEWS No.507 p05)

今回、医問研ニュース500号記念シンポジウムにて発表させていただく機会を頂きました。先生方が活動を継続されていることのすごさだけでなく、様々な年代の方のEBMの取り組みを改めて知る機会となり、とても刺激を頂きました。参加させて頂きありがとうございました。医問研ニュースでも、上記タイトルの発表内容についてご紹介させていただきます。

<AKCDF健診の経緯~貧困による子供たちの劣悪な健康状態>

AKCDF preschool leaning centerは、フィリピンのマニラ首都圏の北西部マラボン市のイーストリバーサイドと呼ばれる貧困地区にある未就学児が通うpreschoolです。1988年、フロールデリサ・ガランさんによって設立されました。設立当時はコミュニティの住人の生活は貧しく、その子供たちの栄養と健康状態は悪く、教育を受ける権利も保証されていない状況でした。
AKCDFへの医療問題研究会による医療協力(健診)は1992年に始まり、毎年の健診を通して現地の状況や要望を把握し、どのような協力が可能であり望ましいかを探りながら継続されてきました。
フィリピンの小児の主な死因は、肺炎、下痢、感染性胃腸炎、先天性異常などです。それらの原因は、生活環境や衛生面、栄養状態によって予防可能と考えられます。しかしながら、フィリピンの医療施設や医療従事者の数は不足しており、保健サービスは予算が不足した場合は中止されています。子供たちの健康状況を改善するためには、健診や健康に対する教育が必要であるということは明らかです。私立病院などで有料の健診は提供されていますが、公的かつ定期的な乳幼児健診は行われていません。特に、貧困層の子供たちは健診を受けることができていないのが現状です。

<貧困が子供たちの健康状態に及ぼす影響について調査>

これらのことから、AKCDFでの健診を通して貧困地区の子供の健康状況と、貧困が健康に及ぼす影響について調査を行いました。結果、やせ過ぎの児は2.2-7.7%、肥満児は0%-3.8%存在し、肥満児よりもやせ過ぎの児の割合が高い傾向でした。
健診で見られた異常所見としては、皮膚疾患、発熱、中耳炎、先天性副腎過形成、心雑音、喘息などがありました。虫歯のある児は54.8-74.4%存在し、耳孔塞栓のある児は15.6%-38.5%存在していました。また、児の視力、聴力、言語、成長について保護者は発達の心配を感じていることが明らかとなりました。公衆衛生については、手洗い、歯磨きは高い割合で行われていましたが、生水を飲んでいる児が存在することがわかりました。貧困家庭の児は貧困家庭でない児と比較して、カウプ指数が低い、虫歯ゼロの割合が低い、生水を飲んでいるという傾向がありました。

<健診や健康教育の継続が必要>

これらのことは、健康に対する関心の向上・健康維持のための支援や発達に心配がある子供に対する健診や教育による支援の必要性があることを示しています。今後も継続して調査を行い、必要な支援の構築や実施、その有用性の検証を行っていきたいと考えています。

NPO法人リハケア神戸・神戸大学大学院保健学研究科 山本