くすりのコラム 生活保護と医療(NEWS No.508 p08)

税の無駄遣いをなくせ、公務員を減らせ、公務員の給料下げろと叫べば選挙に有利です。税の使い道にも安物買いの銭失いがあります。もし、十分な数の有能なケースワーカーがいたら生保ビジネスで使われる医療扶助に多額の税金を投入しなくてもよかったはずです。生活困難者の相談援助を行うケースワーカー不足は深刻で、社会福祉法で示された標準数(都市部で1人あたり80世帯)をはるかに超え、私の住む大阪では最近170世帯を超えたと聞きました。

「この薬は効かないから家帰ったら捨てるわ。」全額公費負担の若い患者さんに「ダメです、いらないなら先生に言って処方削除してもらいましょう。」と言うと面倒くさそうに「はいはい飲みますよ。」と薬をひったくって帰ってしまいました。その横で、背広姿の男性が「これから出張に行かないといけないから急いでお薬ください。」と辛そうに処方箋を持ってきました。税金も払って、社会保険料も収め、やっとの思いでかかった医療機関に2割の自己負担金を払い大きなスーツケースを引いて腹痛を堪えながら仕事のため、よろよろと去っていく後ろ姿は可哀想に見えました。ごく一部の例外だと思いますが医療扶助を受ける側のモラル低下と支える側の税に対する不公平感が大きくなってきたため生活保護受給者への風あたりが強くなっています。

長期失業者、日雇い労働者、低賃金の非正規労働者、子供を抱え思うように働けない母(父)子世帯など、生活困窮にも関わらず福祉を受けられない人たちは沢山います。しかし、扶助を受けていない人は医療機関を容易に受診することができないため薬局で出会うことはありません。大阪のドヤ街の文化住宅に住む患者さんに麻薬の貼付薬を届けに行ったことがあります。文化住宅の掲示板にあった今まで見たことがない結核の検診を啓発する張り紙やベッド1台しか入らないトイレサイズの居室に驚きました。末期ガンになる前、つまり生活保護を受ける前はどのような生活だったのでしょう、結局生活に困るとはどういうことなのか私は知らないのです。元路上生活者に元気そうなのになぜ毎週、医療機関に受診しているのかと尋ねたところ、「道路で寝てたら先生(医師)が生活保護を受けられるようにしてくれたんや。そのかわり毎週医院に行く約束してるからな。ホンマにいい先生や。」と教えてくれました。その時、彼が仕事のように毎週医院に通い、しょっちゅう点滴や検査を受けている理由がわかりました。生活保護であれば高額な抗がん剤を負担金なしで、いくらでも受けることができて羨ましいという人がいます。しかし、実際には本人の意思とは関係なく高額な抗がん剤を次々と受けさせられ「吐き気や下痢でもう耐えられない。もう抗がん剤治療は受けたくないけど治療を断ると病院から追い出される。」と悲しそうに話す生活保護の患者さんがいました。しばしば医療機関受診が生活保護受給要件になるので、ご本人の意思と関係なしに不要な医療をおしつける医療機関が問題であって、受給者に一義的に非がある訳ではないのですが悲しい現実です。

低所得者の生活レベルに合わせるため、生活困窮者対策の抜本的な改善ではなく生活保護費を減額すると厚生労働省は発表しました。いま以上に人らしい生活が困難にならないか心配です。多額の政治献金をする団体や利権を生むところに税が使われ守られています。本当に削減しなければならないのは医療扶助を使った不必要な医療や薬です。きらびやかな大阪のイルミネーションではひとを温めることはできそうにありません。

薬剤師 小林