診療報酬改定で小児抗菌薬適正使用支援加算(NEWS No.511 p06)

内容は、子どもが診療所を受診したときの話ですが、「急性上気道感染症または急性下痢症(ふつうの風邪や胃腸炎)により受診した小児で抗生剤投与の必要性がなく、抗生剤を使用しない場合」に加算するというものです。ただし、初診の場合に限り、抗生剤の使用が必要でない説明など指導を行った場合に算定するとなっています。「小児抗菌薬適正使用支援加算」(新設)と言う名で、受診一回につき80点(すなわち800円)加算となります。今回の改定では、抗菌薬適正使用支援加算:100点(入院初日)(新設)として、外来の小児科と同時に入院での抗菌薬の適正な使用の推進に診療報酬の支払いを増やして支援しています。これは、現状では抗生剤が不要の風邪に、抗生剤が多用、乱用されている状況がありますので、大いに意味がある改訂内容です。
今回の診療報酬の改定の背景には、抗菌薬の不適切な使用を背景として、薬剤耐性菌が世界的に増加する中で、それに対抗する国際的な批判の取り組みがあります。
2015年5月の世界保健機関(WHO)総会で、薬剤耐性に関する国際行動計画(グローバル・アクション・プラン)が採択され、加盟各国に今後2年以内に自国の行動計画を策定するよう要請がなされ、日本も薬剤耐性に関する国家行動計画を策定することを求められました。
これを受け、厚生労働省において、薬剤耐性対策に関する包括的な取組について議論が開始され、2016年4月5日、政府は、「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」(厚労省)を作成し、「抗微生物薬について、2020年までに、経口セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライドの使用量を半減させ、全体の使用量を33%減」を目標とし、外来、入院ともに薬剤耐性(AMR)対策を強化することを方針として決めています。http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html
これを受けて、「伊勢志摩サミット」で抗菌剤の適正使用が議題に取り上げられたことは、読者の皆さんの記憶にも新しいと思います。医問研ニュ-スでも取り上げられています(抗菌剤の適正使用も議題にした「伊勢志摩サミット」を機会に本当の適正使用を!(NEWS No.489 p04))。
現状で風邪など抗生剤不要の病態に抗生剤の使用は、小児科では全体としては随分減ったと思われますが、耳鼻科などの小児科以外での診療科では、まだまだ多用されていると考えられています。
抗菌剤使用で、「自分が慎重に投与しても、他の医師がすぐに投与する」、「小児科医が使用しなくても他科(耳鼻科など)医師が使用する」などの抗菌薬投与についての医療側全体としての理解不足も壁になっています(上気道炎に対する抗菌薬投与実態調査結果報告・大阪小児科学会 地域医療委員会2006年)。今回の改定は、医師個々人の努力のみならず、医療側全体の適正使用に向けた動きを促す流れを作っていくものとして意味があると考えられます。
まだまだ、知られていませんので、様々な機会で知らせていくことが重要と考えます。抗菌剤の適正使用の声を大きくしていくために頑張りたいと思います。

たかまつこどもクリニック 高松 勇