いちどくを この本『デタラメ健康科学』(NEWS No.512 p07)

『デタラメ健康科学』
ベン・ゴールドエイカー 著
梶山あゆみ 訳
河出書房、1800円+税
2011年5月発行

イギリスのEBMを推進する若手医師であり著名なコラムニストであるベン・ゴールドエイカーの本です。以前ご紹介した「悪の製薬企業」(2015)の著者ですが、この本は2008年に発行され、2011年5月に日本語版が出版されています。翻訳者は梶山あゆみ氏で、とてもテンポがよい日本語で読みやすくなっています。副題は「代替療法・製薬会社・メディアのウソ」です。

内容を見てゆきます。1,2章:頭が良くなる運動の類、3章:化粧品、4章:通常の医療に代わる療法;ホメオパシー、5章:プラセボ効果、6章:栄養評論家・サプリメント、7章:ビタミンでエイズは治らない、9章:製薬業界のだまし手口、10章:メディアが科学をおとしめる、11章:なぜ賢い人がばかなことを信じるのか、12章:誤った数字が用いられることの恐ろしさ、13章:メディアがありもしない健康不安をあおる、14章:メディアが広めた新三種混合ワクチン(MMR)のウソ。

これらの問題をEBMの立場から検討しています。読みたくなってきませんか?この本は単にこれらの実態などの紹介ではなく、文中にEBMの基本的な考え方が解説されています。例えば、ホメオパシー批判には、どうすれば効果を確かめられるのか?として「盲検化」や「無作為化(ランダム化)」、「メタ分析」などの意味が、ホメオパシーの秘密を例に解説されているのです。

次にこれらのEBMに反することが、正々堂々と通っている世界への批判として、栄養評論家、サプリメント、ビタミンなどを取り上げ、製薬会社のやりたい放題のだまし手口を紹介しています。出版バイアス、副作用の隠蔽など、論文を読む上での注意点なども理解できます。

なぜ、このようなばかげたことが通るのか?その科学的思考のなさを紹介しつつ、科学的思考とは何かを解説しています。(11章)その1,規則性のないところに規則性を見いだす。その2,何もないところに因果関係を見いだす。その3,仮説に合う情報を重視する。その4,すでにもっている信念に影響される。その5,思い出しやすい情報を重視する。その6,集団に影響される。これらを克服するために科学・統計があるのだと。

これらの誤りから生じた例が、MMRワクチンが「自閉症」の原因として、マスコミで大々的に報じられMMR大反対運動になったことです。主なきっかけはアンドリュー・ウェイクフィールドという外科医がランセットに投稿し掲載された論文です。普通の医学から見れば簡単な間違いがわかるのにマスコミが大々的に報じ、多数の人がMMRを受けなくなり、麻疹などの流行と入院・死亡が増加しました。ワクチン推進派はこの事件を取り上げて、ワクチン宣伝の材料としています。(岩田健太郎、ワクチンは怖くない、光文社新書)

ワクチン問題や被爆問題でも、まるきり根拠のない理論・数字・事例で、ワクチンや被曝の恐怖をあおるだけの意見が出回っており、これらは科学的に障害を検証使用とする側にどういう結果をもたらすのか、この章だけでも読む価値はあります。

最後に、著者はEBMの立場に立って、悪徳な製薬企業と立ち向かって前述の本や多くの分野でEBMの強化のために闘っているようです。とりあえずは一読を。

はやし小児科 林