医薬品販売承認ーRCTをリアルワールドデータで安易に代替できない!(NEWS No.513 p01)

これまで医薬品は有効性安全性をRCT(ランダム化比較臨床試験)で実証して販売承認することが基本 (gold standard) となっていました。ところが、代替が果たして可能なのか、従来と同じ結果が得られるかなどの必要な検討抜きに承認制度を変えようとする強引な動きが強まっています。

そのひとつは2017年10月20日、法律案として国会審議にかけられることなく、厚生労働省の医薬品審査管理課長通知で即日実施された「条件付き早期承認制度」です。この制度は早期承認の際に宿題となった市販後の有効性安全性実証を、リアルワールド(実地臨床)データ(RWD)による観察研究データでよいと公認した世界ではじめての制度です。RWDとしては2018年度から運用されるMID-NET(医療情報データベース、全国10拠点400万人規模)利用を想定しています。なお、電子化が進む中で時間とコストの低減のため、RCTに替えレジストリーデータなどのRWDを用いることができないかは世界共通の関心となっています。しかしこれが可能かの研究は欧米でも始まったばかりであり、米国ではRCTと同じ結果が得られるかのパイロットスタディが全米3拠点で2017年から3年計画で実施中です。1) そして、RCTと異なり観察研究データには多くのバイアスがあり、バイアスの取扱いによっては真実と真逆の結果にも容易になってしまうという危惧が存在します。

今一つは早期承認の宿題についてではなく、RCTの対照群としてRWDを利用することで、治験薬単独群の臨床試験データのみで最初から正式承認する新たな制度への動きです。厚労省が「医薬品産業強化総合戦略~グローバル展開を見据えた創薬」2)で、「薬事規制改革等を通じたコスト低減と効率性向上」としてめざしている本命がこれです。3) 革新的医薬品早期実用化が短期間・低コストで実現し、製薬企業の負担軽減と患者の早期アクセス実現の一挙両得になるとしています。しかしそのためには、医薬品評価に必要な項目のデータがRWDでとられているかのRWD標準化の問題、対照として組み合わせるRWDデータをゆがみなく抽出する一種のランダム化の問題、それにRWDデータの利用でこれまでのRCTと同じ結果が得られるかの実証など多くの検討が必要です。

そしていま重要なこととして、来春の5年ごとの「薬機法」(註)改正に向けて、薬事制度のあり方を論議する本丸の場である厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会の審議が2018年4月11日に開始されたことです。制度部会で検討される3つのテーマの第一に「革新的な医薬品・医療機器等への迅速なアクセス確保・安全対策の充実」が上がっています。承認審査の予見可能性向上に加え、企業負担軽減や国際整合性確保に向けて、一層の制度の見直し・明確化が必要としています。制度部会は7月に論点整理、年内には結論を得る予定です。

5月開催の第2回部会資料にはRWDを対照群として治験薬単独群データのみで承認する新たな承認制度について触れられています。ここで特筆されることとして、日本製薬団体連合会(日薬連)から制度改正の要望書が出され、「条件付き早期承認制度」を法律に基づく制度とし、要件を明確化して予見性の高い仕組みとするよう提案されたことです。この要望についての議論は6月の第3回部会になりますが、昨年10月周知されないまま課長通知で即日実施されたこの制度を見直す場ともなります。

RCTを必要な検討なしでRWDで代替しようとする強引な動きは、EBM (根拠に基づく医療)の危機でもあります。監視と取り組みを強めていきましょう。

<引用文献>
1)  DIA/FDA Biostatic Industry and Regulator Forum April 24, 2018.
Gingery D. RWD could get boost from trial replication project. Pink Sheet April 26, 2018.
2) 厚労省ウェブサイト 医薬品産業強化総合戦略2017/12/22改訂
3) 厚労省ウェブサイト 上記2)参考資料16-18ページ 薬事規則改革等を通じたコスト低減と効率性向上
(註) 「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(旧薬事法)