いちどくを この本『性暴力被害者の医療的支援』(NEWS No.514 p07)

『性暴力被害者の医療的支援ーリプロダクティブ・ヘルツ&ライツの回復に向けて』
特定非営利活動法人性暴力救援センター・大阪SACHICO 編
信山社、1500円+税
2018年4月発行

編者の性暴力救援センター・大阪SACHICOは2010年4月、阪南中央病院(大阪府松原市)に開設された「日本で初めての性暴力被害者支援ワンストップセンター」です。
ワンストップとは、「一か所で必要な支援を提供する」ことを示しています。SACHICOは「Sexual Assault Crisis Healing Intervention Center Osaka(性暴力危機治療的介入センター大阪)」の「頭文字をとったもの」です。
医問研ニュース 第424号(‘10年12月発行)に、SACHICO代表の加藤治子・阪南中央病院産婦人科医師による「『女性医療』としての性暴力被害者救援」と題した寄稿が掲載されています。
「生活背景を考慮した妊婦管理」をめざし、「社会的ハイリスク事例(十代未婚での出産例、経済的困窮事例、家庭内暴力事例など)」に各職種のスタッフと共に取り組むことを院内のシステムとして定着させてきたこと、その活動の積み重ねの中から、DV・性虐待・レイプなどの性暴力は、女性の心とからだに重大な影響を及ぼし、同時に女性の人間としての尊厳すなわち人権を踏みにじるものであり、産婦人科医療の問題として取り組まねばならないと痛感したと、書かれています。
「被害者の回復と性暴力のない社会の実現」を目指すSACHICOの開設以来、2017年3月までの7年間で、相談電話件数28,573件、来所延べ件数5,188件、初診の実人数1,486人を、支援員と産婦人科医師とで支援・診療しています。すなわち「一年間に200人以上もの人たちを当事者として新たに迎え入れていること」を意味しています。
現在、法人理事長の責務を担われている加藤氏による「巻頭言」では、本書が昨年12月発行の「性暴力被害者の法的支援―性的自己決定権・性的人格権の確立」および、続いて発行予定の「性暴力被害者への支援員の役割―リプロダクティブ・ライツをまもる」と共に、「全国各地どこででもすべての被害者」が「総合的・包括的支援」を受けられることを目指して上梓されたことが述べられています。
また「支援の側にいる弁護士・医師・支援員等関係者の基礎的な法的知識や医学的知識に関する理解を深めるだけでなく、性暴力被害当事者にとっても、自身が受けられる支援の内容を理解する上で手助けになり、回復への後押しになればと願っています」との記述があります。

7年間の活動を支えたもの、7年間の実践から明らかになったことを、4名の産婦人科医師、3名の精神科医師および法医学者、臨床心理士が分担執筆されており、内8名が女性メンバーです。被害実態を踏まえて、「性暴力とは」何かを認識する第1章、「医学的対応と医師の役割」を学ぶ第2章、「法医学者の役割」を学ぶ第3章。理解を深めるためのコラムとして「SANE(性暴力被害者支援専門看護師)について・子どもへの問診上の留意事項・性的犯罪の男性被害者・構造化された環境」が配されています。

「誰もが被害者であり得る」社会を念頭に、読んでおいて頂きたい書物です。

小児科医 伊集院