大阪保険医協会は、ワクチン被害者運動への根拠のない非難キャンペーンを止めるべき(NEWS No.515 p05)

大阪保険医雑誌6月号は、「なるか?ワクチン先進国への再興」と題して特集を組み、主に子宮頸がん(HPV)ワクチンの「積極的接種勧奨」の再開を求めています。
HPVワクチンの効果と副作用の科学的な分析に則ったものとは正反対に、ワクチン副作用の被害者の運動を攻撃することにより、副作用への不安を被害者運動への憎悪にすりかえるという、同誌としては異質と思われる編集です。
以下批判的にご紹介します。
まず、日本がワクチン後進国になった原因は、MMR(おたふく、はしか、風疹)ワクチンの副作用などを問題視して行われた予防接種法改正以後だとか、訴訟の多いことだなどとしています。これは、DPTやMMRなどワクチン被害者の、「私憤を公憤へ」と自らの子どもと家族にふりかかった悲劇から他の人たちを守るためという大きな目的をもって闘ってきた人を、逆に非難するものです。
そのような前置きの後、巻頭論文は村中璃子氏が、欧米での誤った副作用情報を元にしたMMR拒否運動を利用して「世界的に見れば、薬害デマによって接種率が低下したという事例は過去にもある。」と、まるで今回のHPVワクチン被害者の運動が「薬害デマ」だと描いています。村中氏は、効果を持ち上げる反面、副作用を名古屋市のデータで否定されたとしています。
次の、原田佳明論文では、認定患者だけで1041(厚労省)人に及んだMMRの副作用には触れてはいます。これらの副作用の被害者らの運動によって、予防接種法の接種義務規定などの非民主主義的な内容を大幅に改善しました。しかし原田氏は、逆に、強制ではなく説明と納得によって接種を進めることを認めさせたことなどの改正が、あたかもワクチン行政を停滞させているかのように書いています。
そのうえで、「ワクチンパレード」の主催者が、「ワクチン躊躇者」を批判しています。このパレードには、HPVワクチンを導入する際に、大きな働きをした「VPD(ワクチンで予防できる病気)を知って、子どもを守ろうの会」が名を連ねていますが、当時の代表園部氏は講演料または執筆料でMSDから50-500万円を受領しています。
特集は、バイオテロに関する防衛医大教授の論文をはさんで、最後にカイロプラクティックの施術者がHPVワクチンの被害者たち95人中75人が(定義もなく)「回復した」とし、うち回復した5症例を紹介しています。その中で、「しかし日々苦悶する娘を前にしたら矛先を何か(ワクチンのこと:林)に向けていなかったら私が参っていました」との母の言葉を紹介し、この方も含めて被害者がこのような心理的状況で副作用だと信じているに過ぎないかのように紹介しています。
HPVワクチンの証明された効果はがんの予防ではなく、「前がん状態」を減少させただけです。副作用に関しては、長期にわたる激しい痛みや様々な神経・運動異常を引き起こすことが世界的にも問題になっています。(薬害オンブズパースンホームページなど参照)
また、この特集で副作用を否定する証拠として唯一だされている名古屋市のデータの鈴木貞夫氏の論文の誤りが、浜六郎氏の分析で明白になっています。それはワクチンを受ける人は受けない人に比べ病的症状が少ないいわゆる「健康バイアス」を無視するという決定的な誤りを犯しています。(NPO法人医薬ビジランスセンター、ホームページに詳しい分析が掲載されています。)こうして、この特集は、ワクチン企業とそのおこぼれをもらうワクチン接種医の側に立って、科学的分析を無視し、多くの被害者を「デマ」として、HPVワクチンの積極的勧奨を再開することを迫るものであり、多くの保険医の願いに反しているものと思われます。

はやし小児科 林