くすりのコラム ビスフォスフォネート(BP)経口骨粗しょう症薬(NEWS No.515 p08)

抜歯の治療を受けたものの、出血や腫れが治まらず辛そうな患者さんが「骨の薬が中止になったよ」と処方箋を持ってやってきました。以前は顎骨壊死のリスクを避けるため抜歯の前には経口BP薬は中止となっていましたが「顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー」がでてから、前もって休止しなくなりました。「できれば中止して頂ければ治療しやすい。」と歯科医は処方医へ休薬を「お願い」するような形になりました。あるとき、患者さんが歯科医からの伝言で「BP薬の休薬」を主治医に伝えたところ、今度は主治医から歯科医へ「ポジションペーパーを読むように。」と伝言があり「ポジションペーパー」と走り書きされたメモを患者さんが握り締めて困っていたことがありました。

顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー・2016年を読むと、抜歯を前提にした休薬は必要なのか不要なのか理解に苦しみます。委員は日本骨代謝学会・日本骨粗鬆症学会・日本歯科放射線学会・日本歯周病学会・日本口腔外科学会・日本臨床口腔病理学会で構成されており、日本骨代謝学会・日本骨粗鬆症学会・日本歯科放射線学会の委員の利益相反には多数のメーカーが名を連ねていますが、日本歯周病学会・日本口腔外科学会・日本臨床口腔病理学会には「無し」とだけ書かれています。唯一、歯科チームで利益相反がある日本歯科放射線学会の松本歯科大 歯科放射線 ・田口明教授の骨密度測定装置等医療機器会社のHP:GE Healthcare に寄稿されている「ビスフォスフォネート製剤関連顎骨壊死・骨髄炎の現状とその問題点」には[日本骨代謝学会のposition paperの「休薬基準」は一つの基準であり,1人1人の患者にすべて当てはまるものではない.勿論,既存骨折もなく,骨密度も骨代謝マーカーも正常まで改善されているのであれば,医師との連携で「休薬」という選択肢も選べる患者はいるであろうが,歯科医師側より積極的に「休薬」を望むのは非常に危険であり,「休薬」をした挙げ句に顎骨骨髄炎と骨折が起こった場合は極めて取り返しはつかないものとなることを歯科医師は忘れないようにしなくてはならない.] と書かれています。休薬を歯科医がお願いして骨折したら歯科医の責任と言わんばかりの内容に驚きます。

ビスフォスフォネート(BP)系骨粗しょう症薬は骨の新陳代謝に関わる、破骨細胞の働きを抑える薬です。FDAはBP治療が4年以上で顎骨壊死の発生率が上昇すると報告しています。添付文書には「長期使用により非外傷性の大腿骨転子下及び近位大腿骨骨幹部の非定型骨折が発現の報告がある。」と記載されており、海外では、3〜5年の使用後に薬物中止を考慮する必要があると期間を示しています。BP薬、長期服用による骨折のリスク上昇は、各学会HP上のポジションペーパーに対する見解では全く触れられていません。むしろ、経口BP薬を3年以上服用している患者は「骨折リスクが高くない」から休薬してもよいのだという全く逆の理論で書かれています。このポジションペーパーほど「著者の利益相反」の罪を強く感じたことがありません。

薬剤師 小林