臨床薬理研・懇話会7月例会報告 シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第39回(NEWS No.516 p02)

臨床薬理研・懇話会7月例会報告
シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第39回
1日に1本のタバコでも心血管リスクが顕著に増加 (前向きコホート研究)

タバコの害が気がかりで節煙を心がけている人は、1日に喫煙する本数を減らすと冠動脈疾患や脳卒中のリスクをかなり減らすことができると期待している場合があると考えられます。しかし、それは期待できない、たばこの量を減らすのではなく禁煙を目標にすべきという、前向き(prospective)コホート研究のメタアナリシス(総合分析)文献がBMJ誌電子版に掲載されました。今回はこの文献を取り上げます。
Hackshaw A (UK) et al. タバコの少量消費と冠状動脈性心疾患と脳卒中のリスク: 55研究報告での141のコホート研究のメタアナリシス. BMJ 2018; 360: j5855.
http://www.bmj.com/content/bmj/360/bmj.j5855.full.pdf

データソースは、1946年から2015年5月の期間のメドラインと参考文献のマニュアルサーチで、研究期間中に少なくとも50のイベントが観察された前向きのコホート研究を対象としました。著者たちは前向きの研究のみを対象とすることで、症例対照研究のような後ろ向きデザインの研究に伴うバイアスを避けたとしています。論文のタイトルにあるように、55研究報告での141のコホート研究を総合分析しています。データの抽出/合成は、観察研究のメタアナリシスにおける報告用のチェックリストであるMOOSEガイドライン (Meta-analysis Of Observational Studies in Epidemiology: JAMA 2000; 283: 2008-12)に従っています。それぞれの研究に対して、1日1本、5本、20本のタバコ消費による相対リスクを、リスクとタバコ消費との間の回帰モデルを用いて推定しました。相対リスクは少なくとも年齢で調整し、またしばしばさらに追加した交絡因子で調整しました。

結果は、男性では、冠状動脈性心疾患に対するプールした相対リスク・ハザード比は、1日1本喫煙で1.48、1日20本喫煙では2.04でした。様々な交絡因子で調整すると1.74および2.27でした。女性では、1日1本喫煙で1.57、1日20本喫煙では2.84でした。様々な交絡因子で調整すると2.19および3.95でした。
冠状動脈性心疾患では、1日に約1本のタバコを喫煙する男性は、1日に20本喫煙する男性の46%のリスク(約半分の過剰リスク)がありました。様々な交絡因子で調整すると53%のリスクでした。女性では、31%のリスク(様々な交絡因子で調整すると38%)のリスクでした。

脳卒中に対しては、1日1本喫煙の男性のプールした相対リスクは1.25、1日20本喫煙では1.64でした(様々な交絡因子で調整すると1.30と1.56でした)。女性では、1日1本喫煙のプールした相対リスクは1.31、1日20本喫煙では2.16でした(様々な交絡因子で調整すると1.46と2.42でした)。1日に約1本のタバコを喫煙する男性は、1日に20本喫煙する男性の41%のリスクでした。女性では34%のリスクでした。様々な交絡因子で調整すると男性では64%、女性では36%のリスクでした。
相対リスクは通常男性よりも女性で高い値でした。

著者たちは、「1日に約1本のタバコの喫煙でも予想する以上の冠状動脈性心疾患と脳卒中の発現リスクがある。それらは1日に20本の喫煙をする人々の約半分ものリスクに相当する。心血管疾患に対しては、ここまでは心配ないという安全レベルは存在しない。喫煙者はこれら2つのよくある生命の危険を伴う疾患のリスクを有意に減じるために、喫煙の量を減らすのでなく禁煙を目標にすべきだ」と結論しています。

著者たちは、タバコの本数の節減はガンの場合は明白な便益を示すが、循環器系リスクでは喫煙者が期待するようには効果がないことが明白に示されており、その結果は男女、疾患グループ(冠状動脈性心疾患、脳卒中、心血管疾患)、統計的手法の違いで変わらず一貫していると強調しています。著者たちは節煙でなく禁煙を目標とすべきと述べ、また禁煙の効果は循環器系リスクに対して速やかに現れ効果的であると述べています。

当日の討論では、喫煙家にとっては絶望的な数字で、インパクトの大きいデータであるとの感想、自身の喫煙経験から節煙というのは難易度が高く、思い切りよく禁煙がよいのでないか、このデータは受動喫煙の悪影響にもつながるという感想が出ていました。

薬剤師 寺岡章雄