福島原発事故後の甲状腺がん患者の推移(NEWS No.516 p03)

本年6月18日開催された第31回福島県「県民健康調査」検討委員会で「甲状腺検査結果」が公表されています。資料によれば、「先行検査(検査1回目)」で115人、「本格検査(検査2回目)」で71人、「本格検査(検査3回目)」で12人、合計198人の甲状腺がん患者が発見されている。また、その中で手術を受けた患者は162人に上っています。小児甲状腺がんの発生頻度は、通常10万人当たり0.1~0.2人であり、福島の甲状腺がん発生の現状は、通常の50倍以上の多発であることに違いはありません。

しかし、「本格検査(検査3回目)」で12人と報告数が減少していることに疑問を持たれる方は多いのではないでしょうか? 今回は、その点を検討しました。以下のような二つの可能性で、甲状腺がん患者数が低くなり隠される実態が考察可能でした。

<1>検査すべき対象者約30数万人に対しての検査結果の把握率(=1次検査と二次検査の結果判定率の積)は、「先行検査(検査1回目)」で75%だったものが、「本格検査(検査2回目)」で58%に低下し、「本格検査(検査3回目)」では31%にまで極端に下がっています。公表された結果は、特に「本格検査(検査3回目)」では現状では3分の1の対象者の結果しか公表されていないと言えます。残り3分の2の実態は不明のままにされて隠されてしまっています。
参照:「本格検査(検査3回目)」で1次検査対象者336,668人中、結果が確定した者が203,826人で60.5%。また、2次検査では、対象者1,367人中、結果が確定した者が689人で50.4%。合わせて、60.5%×50.4%=30.5%となります。

<2>「県民健康調査」から除外されている症例の存在
「県民健康調査」2次検診でB・C判定とされ、穿刺吸引細胞診が直ぐには実施されず診察必要とされ、その後に経過観察に回された者は、保険診療扱いとなり家経過観察後に悪性=甲状腺がんと診断されても報告されない問題が指摘されてきました。
我々医問研も、今春の日本小児科学会でこのテ-マで演題を出して追及してきました。以下の横谷氏の報告は、我々の発表に対して学会発表時に座長を担当した横谷氏からの回答である可能性があります。
今回、その一部が、甲状腺検査集計外症例の調査結果の速報(福島県立医科大学 甲状腺・内分泌センター長・横谷進氏)として、第10回甲状腺検査評価部会(本年7月8日)に報告されています。それによると、福島医大で手術した甲状腺がん患者(2011年10月~2017年6月)158人中で11人(7%)が「県民健康調査」集計外でした。また、11人の内7人(64%)は「保険診療による経過観察を経て手術をされていた」と言います。これでは、甲状腺がんであっても「県民健康調査」の2次検査では細胞診は未実施とし、「保険診療による経過観察を経て細胞診で診断し手術をする」ことで、公の公表デ-タから甲状腺がんを隠すことが意図的に可能となるル-トが出来ていたことになるではありませんか。
また、福島医大以外で手術をした7人(154人の手術患者の内の4.6%)は集計されておらず、闇の中のままです。「保険診療による経過観察として福島医大以外で手術をする」ことで、また隠すル-トが成立しているのではないでしょうか?

私たちは、(1)甲状腺検査受診率の向上、(2)集計から除外された患者の全数の経過を把握し公表すること、(3)甲状腺がんの発生実態の全容の把握を求めていかねばならないと考えます。

高松勇(たかまつこどもクリニック)