臨床薬理研・懇話会8月例会報告 シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第40回(NEWS No.517 p02)

臨床薬理研・懇話会8月例会報告
シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第40回
ヘルシーユーザーバイアスと関連バイアス

リアルワールドデータ(観察研究データ)に向き合っていく重要性が高まっています。
今回は観察研究で注目されることの多いバイアスのひとつ healthy user & related biasesについて

Shrank WH et al. Healthy user and related biases in observational studies of preventive interventions: A primer for physicians (予防的介入の観察研究におけるヘルシーユーザーおよび関連したバイアス: 医師への手引き) J Gen Intern Med 2010; 26: 546-50. フリーアクセス文献。

多くの観察研究データが出版されるようになりましたが、予防的介入の効果が誇張され、ランダム化比較試験で否定されるという事態が、ホルモン置換療法(HRT)―心循環疾患、ビタミンB, C, E,ベータカロテン-心血管死など、相次ぎました。著者はこの文献で、患者の健康志向行動と患者の健康についての医師の理解 (perceptions)に関連したバイアスの原因について論じています。

ヘルシーユーザー効果は、ひとつの予防療法を受ける患者は他の予防サービスにも積極的であり、他のヘルシーな行動にも参加する傾向がある、ということで生じます。予防療法を受けることを選択する患者は良く運動し、健康的な食事を摂り、ドライブではシートベルトを着用し、禁煙するという具合です。結果として、関連したアウトカム(例えば心筋梗塞)に対する予防療法の効果(例えばスタチン療法)を評価する観察研究は、他の関連した予防的な行動(例えば健康な食事や運動)を調整しなければ、予防療法の効果を過大評価してしまいます。

同様に、予防療法を遵守する (adhere)患者が遵守しない患者よりも他の健康な行動を好む場合に、ヘルシーアドヒァラー効果が起こります。例えば他の療法よりもある慢性治療薬を強く好んだり、推奨されているがんのスクリーニングテストを好んで受けたり、予防注射を好んで受けたりする場合です。最も際立った例は、ランダム化臨床試験 (RCT)でプラセボを熱心に服用した患者は、熱心でない患者よりも死亡の割合が低かったのです。

認知障碍が患者の医師を訪れる能力を制限し、重篤な身体的機能的障碍がクリニック受診に対するバリアーとなる場合があります。このタイプの交絡がインフルエンザワクチン接種の死亡リスクに対する大きな観察された保護効果の説明となりました。身体の機能的状態あるいは認知障碍について説明していない観察研究は、予防療法の効果を過大にすることになります。

医師はしばしば入院患者、外来患者の両方で、frail (虚弱)な患者、終末期や急性疾患の患者には予防療法の処方をしません。インフルエンザワクチン接種の死亡に対する減少効果についてもこのバイアス(治療適応による交絡) が影響しているとみられるものがあります。

観察研究におけるバイアスを完全に取り除く方法論は存在しませんが、バイアスを最小にして結果の正当性をいうために若干のアプローチを用いることができます。観察研究論文を批判的に読むには,著者たちが適切な研究計画と統計的解析を通じてバイアスを適切に最小化しているかに注意する必要があります。

新しい患者といくつもの予防療法を経験してきている患者を比較することは、しばしば問題をはらみます。その時点で病気のある(prevalent)患者母集団は、問題になっている治療を遵守する患者や耐性のある患者を多く含む可能性があります。このため new user designs が用いられます。

このデザインであってもヘルシーアドヒァラー効果はまぬがれず、intention-to-treat analysis (ITT, 治療意図の原理による解析) が他の可能な交絡を調整するために行われるべきです。new user designsはヘルシーアドヒァラー効果を防止しますが、ヘルシーユーザー効果は防止できません。観察開始時のヘルシーユーザー効果によるバイアスを減らすために、適応疾患が類似する2つの医薬品の比較(active comparator)が有用とされています。

統計的調整の改善のために、ワクチン、マンモグラフィー(乳房撮影)、大腸内視鏡検査の年齢または体調による使用のような予防サービスを調整因子に含めることが、ヘルシーユーザー効果のコントロールに役立つかもしれません。また他の慢性疾患治療に対するアドヒァランス(編集部註:遵守の程度)を調整することでヘルシーアドヒァラー効果をコントロールできるかもしれません。身体の機能的状態あるいは認知障碍のスコア、認知症薬での治療、ナーシングホーム滞在期間の長さ、リハビリテーションセンター滞在期間の長さを調整因子に含めることも改善に役立ちます。コンピューターテクニックの発達により、幾百の共変量(主要目的の変数ではないが治療に対する反応に影響し得る変数)を同時に調整し、これらのタイプの交絡をより良くコントロールできると期待されています。

感度分析は外れ値など異常なデータ値を含めて、あるいは除くなどによって、データやモデルに関する前提を変えて実施する副次解析です。その目的は、研究の結果、結論が安定しており頑健であることを知ることです。ひとつのアプローチは “negative control outcomes” の評価です。研究されている治療によっては影響されないが、バイアス(例えばヘルシーユーザー効果)を起こす現象に関連しているかもしれないイベントの調査などです。例えば、インフルエンザワクチンの接種の有無とインフルエンザシーズン到来前の死亡など、曝露による影響は考えられないが、ヘルシーユーザー効果を起こす可能性のある“negative control outcomes” と曝露の検討が有用です。これらで改善されたアウトカムはインフルエンザワクチンそのものがもたらしたものでないと示唆されます。同様に“negative control exposure”も用いられます。そうしたデザインにおいて、曝露は研究アウトカムに生物学的な効果があるとは考えられませんが、健康状態や健康指向の行動によって、アウトカムに影響します。

観察研究文献の信頼性をより良く評価する際に、可能なバイアスの源について考察し、それらのバイアスをコントロールするよう努力することは、欠かすことのできないことです。

例会当日は「交絡因子の特性」などがあらためて話題になりました。「交絡 (confounding)」は疫学研究デザインの中心課題で、単純に定義するなら「効果の混同 (confusion of effects)」といえます。この定義が示すように、曝露の効果が他の変数の効果と混ざってしまうために生ずるバイアスのことです。「交絡因子」は効果をもち、比較された曝露群間で不均等に存在しなくてはなりません。このことから、交絡因子には、3つの必要条件、1) 疾病と関連していなければならない、2) 暴露と関連していなければならない、3) 曝露の結果であってはならない、があります。曝露から疾病に向かう因果関係の中間に介在するものは交絡因子ではありません。それは研究しようとしている結果の一部です。例えば、飽和脂肪の多い食事が血中の低比重リポタンパク (LDL) の高値を引き起こし、LDL高値が動脈硬化を引き起こすとしたら、LDL高値は食事と動脈硬化の両方に関連していますが、それは曝露の一部であって交絡とみなされるべきではありません。曝露の作用結果であれば、疾病の因果関係の一部であろうがなかろうが、交絡因子ではありません (ロスマンの疫学 科学的思考への誘い 第2版、矢野ほか監訳、篠原出版新社、2013)。

薬剤師 寺岡章雄