くすりのコラム HPVワクチンを考える 子どものHPV感染と性虐待の関連(NEWS No.517 p08)

「うちの子、おちんちんばかり触って、やめさせたいけど…」というママ悩みはよくあるものの、ほんの短い間だけで収まって、悩んでいたことすら忘れてしまいます。子宮頸がんワクチンはHPVの性器感染症が発症の原因だから、性的に活発になる前の女の子に接種しようという考え方で作られました。前号の資料を調べていたとき、子どものHPV性器/肛門感染は性虐待か否かという論争があることを知りました。接種推奨前の小さな子ども達のHPV抗体価を知りたいと単純に考えていましたが、このようなデリケートな問題を伴っていたのです。

医問研ニュース494号でNIHヒトマイクロバイオームプロジェクトのHPV報告を紹介しました。系統樹では約150種、未知のゲノムもあることがわかっています。ウイルスの進化は早く、現在ではもっと増えていることでしょう。人の消化管・肌・口中・膣、あちこちにHPVは暮らしています。
Human papillomaviruses in the normal oral cavity of children in Japanでは3歳と5歳の77人の口腔内のHPV感染について調査しています。口腔内のHPV陽性率は3歳で45.2%、5歳で50%、そのうち約3割がHPV16型であると報告しています。一方、成人では口腔内HPV陽性率は4.5%、HPV16型は1.3%という報告されています。冒頭のように、おちんちんばかり触っている子もいるでしょう。(Journal of Pediatric and Adolescent Gynecology Volume 31,Issue 3,June 2018,Pages 225-231) 性的虐待が疑われる子どもの医学的所見の解釈ではHPV感染は性感染と非性感染の可能性があるため、子どもの世話(おむつを替える)をしてきた者のHPV感染歴の確認などの他の情報と合わせて判断する必要があると報告しています。

子供の免疫は大人とちがう免疫機構をもちます。粘膜の感染予防に働いているIgAが1才で大人の1/4と少なく、15ー18歳でやっと大人と同じ量になることや、NK細胞やCTLを含む白血球数は出生時に著しく増加し生後1ヶ月で急激に低下します。その後徐々に低下し9-14歳で成人とほぼ同じ値になります。多くの子供たちは高リスクHPVに晒されながらも、口腔がんを発症していません。幼少時に活躍するNK細胞、CTL、青年期に上昇するIgAが交代で粘膜の感染症から防御しているのが功を奏しているのかもしれません。前号にも書きましたが、HPVワクチンで上昇する抗体はIgG抗体で、それを粘膜に染み出させてHPV感染から防御させようと作られたものです。

経膣分娩・育児中のおむつ替え・おむつでの下痢便による性器汚染・スキンシップ(親以外も)・集団生活・SEXといったヒトの生活とHPVの生息域(感染部位)・生活環境が複雑にからみ合っていることがわかります。ワクチンで16・18型HPV感染が防げるとしても、ヒトの生活に入り込んだHPVに太刀打ちできるとは思えません。

薬剤師 小林