日本公衆衛生学会・ 自由集会報告(NEWS No.519 p02)

10月25日に郡山市で開催された第77回日本公衆衛生学会に合わせて、「手作り自由集会・第7回低線量被曝と健康被害を考える集い」が開催されました。福島原発事故後、2012年に第1回を山口市で開催して以降、本年で7回目となりました。本年の公衆衛生学会は開催地が原発事故当該の福島県であり、討議を通じて福島原発事故と健康被害の問題を積極的に考える機会にすべきと考え臨みました。

第一部「福島原発事故後の広範な健康被害の増加を考える」では、林敬次氏(医問研)から、1)甲状腺がん異常多発、2)福島県を含む汚染都府県における周産期死亡の増加に関して報告がありました。証拠として、原発事故と健康被害に関する本邦から発表された2本の英文論文が紹介されました。一つは、甲状腺がんの異常多発に関する論文です。津田敏秀教授(岡山大学)は、福島の甲状腺がんの発生が日本のがん統計との比較(発症率比の検討)で20~50倍の桁違いの異常多発であり、その多発は事故による影響以外の原因が考えられないことを事実で示され、国際環境疫学会が発行する”“Epidemiology (環境疫学分野のトップジャーナル)”に論文を発表されました。もう一つは、福島原発事故後周産期死亡率が増加していることが、ドイツ・日本の共同研究で明白になってきたことです。Hagen Scherb氏(ドイツ生物統計学研究所)と林敬次氏、森國悦氏の共著研究で医学論文“Medicine”に掲載されたものです。この論文では、周産期の小児が2014年末までに、すでに300人以上が犠牲になっていることを示しています。

会場との議論の中では、身近で膠原病が増えているが事故との関連はどうか? 甲状腺がんの多発問題は大変重要でもっと強く訴えるべきことだ、ヨウ素剤投与の実態はどうだったのか? 福島医大は甲状腺がん患者の訴えに寄り添っていないと思われるがどうか? など様々な意見が出され討論されました。

参加者の感想では、「発表者の報告は論点が整理されていて、とても分かりやすかった。」「通常の学会発表では聞かれることのない議論が聞けて良かったと思います。」「賛否両論があるともっとよかったかもしれませんが、でもなかなか難しいのでしょうね」がありました。

2012年以降、継続して開催してきた「低線量被曝と健康被害を考える集い」が、日本公衆衛生学会の中で確実に根を下ろし、低線量被曝と健康被害を考え、被災者の声に耳を傾ける貴重で重要な機会として会員に定着してきていることを感じることが出来ました。さらに継続と発展を目指したいと思っています。

第二部は、「福島の現地から」と題して、福島原発事故後の放射能汚染とその被害で苦しむ福島の人々の苦悩を報告いただきました。

三春町在住の写真家・飛田晋秀さんから写真を使って報告がなされました。飛田さんは3・11事故後の状況を撮影され、「事故を風化させない」「事故後の状況をありのままに知ってほしい」「福島県民の思いを知ってほしい」と日本各地で写真展と講演会を行っておられます。当日は、地震で倒壊し荒れ果てた家屋、野生化した家畜、耕作が放棄された田畑で雑草が伸び放題になっている現状。いまだに高い放射線値が計測されている事実。いたる所フレコンバックの山、除染したが線量が下がらない現状、植物の異常(バラの奇形、モミの木の葉の異常)など、原発事故が起きると街はこうなってしまうという姿を知り、福島の今を考え、次世代への警鐘として貴重な報告でした。

郡山市在住の塚原広さんから発言がありました。現在も多くの方が狭く不便な仮設住宅での避難生活を強いられていますが、とりわけ子どもたちにはストレスの多い生活から多くの訴えがあったが、ゆっくり休んでもらえるように心を配って寄り添ってきたこと。行政の放射線測定は地上高さ1.5メートルで行っており、真の土壌汚染を測定しておらず低く結果が出るものであり、事実を正しく伝えていない。フレコンバッグの保管もずさんで、保管すべきものが知らない間に運び去られていたりするなど不都合なデ-タは見ようとしない行政の現状への怒りを報告されました。

飯館村・村議の佐藤八郎さんから報告をいただきました。飯館村は、事故前は「日本でも一番美しい村」として知られていた自然豊かな農村でしたが、事故後は放射能で高濃度汚染され避難地域となってしまいました。事故当初、県から「放射能の専門家」が来て「300マイクロシ-ベルトでも大丈夫」と村中で言って回った。多くの人が安全と思い込んで早期避難の時期を逃したが、その後国から村全体の避難指示が出される事態となった。「だます、隠す、嘘をつく」が行われている。樹木は枯れ、小動物は居なくなり被曝のすごさを日々に感じている。村では生活する場を村民全体が奪われたと嘆く。しかし、事故に負けず放射能汚染や健康被害の実態を訴え、除染の徹底、生活再建、医療の保障、完全賠償を目指したいと報告されました。

参加者の感想では、「福島の方の報告により改めて”今”の現状を教えてもらえた」「本当の声を聴くことが難しい中で福島在住のいろいろな方の声を聴くことが出来て有意義だった」「写真の報告は実に衝撃的でした」「福島の方の具体的話が聞けてよかった」と、福島の放射能汚染の現状への驚きと人々の苦労への共感が寄せられています。また、「来年も続けていただきたいです」と嬉しい励ましもいただきました。引き続き、頑張ろうと勇気をもらった自由集会でした。

高松 勇(たかまつこどもクリニック)