HPVの効果判定 粘膜変異性とウイルスを混合している問題(NEWS No.519 p04)

HPVワクチンのコクランレビューのことを12月1日大阪小児科学会で報告しました。
今回は、その過程ではっきりした、HPVワクチンの効果判定に重要な問題があることをピーター・ゲッチェの再批判論文から報告します。

「HPVワクチンはがんではなく、子宮頚粘膜の異形成性を減らすだけ」との批判は、大変重要だと思います。しかし、子宮頚粘膜の異形成を防げれば、がんも防げる可能性が高いとの主張(厚生労働省)が間違いと証明できたわけでありません。
(注:子宮粘膜の異形成(CIN)の程度は、CIN1

ピーターの批判はそれに留まりません。最初の批判ではCIN1(軽度の異形成),CIN2,CIN3という粘膜変性度を混合して評価しているとのものでした。

再批判では、これに加えてCIN2やCIN3とウイルスの関連を混合していることに言及し、コクランレビューでメタ分析されている結果とある研究でのデータを示すことで、これまでの研究報告も、コクランのレビューもアウトカムの基本的問題を明らかにしています。

コクランレビューは、プライマリイアウトカムとして「CIN2」の比較ではなく「CIN2 かつHPV16/18 (CIN2+  associated with HPV16,18)」を採用しています。表の一番上の段のように、このアウトカムですと、RiskRatio =0.01【0.00,0.05】となります。圧倒的に効果があるかのようになります。

これでは、HPV16/18を含むCIN2は数えられるが、これらのウイルスを含まないCIN2は除外されます。ワクチンがHPV16/18を排除することができれば、ワクチン群のCIN2のうちウイルスと含まないものは除外され、当然RRは非常に小さくなり「大変効果あり」となるわけです。

逆に、HPVの型にかかわらないCIN2(any CIN2+ irrespective of HPV types)を比較すると、RR=0.79(0.66,0.97) 15-26yでは0.70(0.58,0.85) 24-45yではRR=1.04有意差なし、となりワクチン群と対照群の差はずーと縮まります。

さらに、よりがんに近いCIN3では、全CIN3をアウトカムとするとRRオ。91(0.66,1.27)で有意差がありません。

アウトカムが全がんとなると、さらに「効かないことが」はっきりするかも知れません。
さて、今年になって、初めて「がん」を予防したという論文がフィンランドで発表されました。

コクランのメインの集計(CIN2+HPV16/18)

ワクチン群対照群RR(95%信頼区間)
CIN2(HPV 16/18+)1/11815194/118610.01(0.00-0.05)
圧倒的に効果あり!!
全てのCIN2900/225121140/225540.79(0.65-0.97)
効果激減
全ての  CIN3203/8810233/88120.91(0.66-1.27)
CIN2より悪性のCIN3で効果なし
がん

2018年10月25日に郡山市で開催された日本公衆衛生学会のメインシンポジウム3「福島県甲状腺検査の現状の紹介と今後の方向性に関する論点」に参加した。約2時間のシンポジウムの中で4名のシンポジストが講演、論議し、会場参加者との討議は20分程度と短いものであった。シンポジストは福島医大から大平哲也氏、高橋秀人氏、産業医大放射線健康医学講座の岡崎龍史氏、相馬中央病院の越智小枝氏であった。この面々からも「甲状腺がんの多発は見せかけか過剰診断によるものであり、原発事故による放射線被害ではない。全県民を対象とした検査は無益なため続けるべきではない」ことを示すために開催されたお手盛りのシンポジウムが意図されたことは明確である。

トップにたった大平氏は福島県県民健康管理センターの責任者として2巡目となる本格検査を概括した。27万人中71名が甲状腺がんと診断され、地域別では(最も線量の高い)避難13市町村が(最も低い)いわき会津に比べ発見率が高かったことに言及せざるを得なかった。これは県自らスクリーニング効果を否定したことと同じだろう。いわき会津地方ではもともと罹患率の高いはずの18歳以上での受診率が少なかったことを理由に挙げたが、年齢により罹患率が上昇するという点にスポットを当てた場合、逆にいわき会津地方は27年度に検査したので、26年度に検査した避難地域に比べ1歳年齢が高くなることの影響についての説明がなかったという点が鮮明になった。1巡目の先行検査では一見通用し易い、多発はスクリーニングや過剰診断で発見されたという隠れ蓑が使えないことをわかっていたためか、大平氏の講演は自信なさげであったと感じたのは私だけではなかったろう。

この矛盾を何とか繕おうとしたのが2番目の高橋氏であった。氏は私的な見解と断りつつ、論文がそろっていないことを理由に先行検査の結果についてのみ推論を展開した。先行検査は0-18歳までの有病割合についての調査であり、比較すべき罹患率調査は全年齢であり単純比較はできない。全年齢で分析すれば先行検査の甲状腺がんの有病割合は、女性30代まで、男性70代までの累積であり得るとし、多発は見せかけで全ての福島甲状腺がんはスクリーニング効果によって説明できるとした。18歳までのスクリーニング検査によって何人くらいの甲状腺がんが発見され得たかの論議が、いつの間にか「多発数が全年齢にしたら何歳くらいまでのがんを発見したのと同じくらいか」にすり替わってしまった。先行検査の中間評価でがん研の津金氏が展開した、通常の50倍にものぼる多発は、スクリーニング効果だけでは説明できないとした結論をも飛び越えるものであった。

医問研の林、高松氏の質問で言い易くなったので、一般論議で私は高橋氏に対し「スクリーニングでいったい何人増加したのですか? スクリーニング効果によって多発に見えただけという高橋氏の私的推論はがん研の津金氏の結論をも無視するものである。またもともと10万人に2人くらいしか累積有病者の少ない18歳までの年齢で、いくらスクリーニングで母数を多く検査してもせいぜい2-3人しか増加しないのは計算すればすぐわかる。0人はいくら検査しても0人(実際は0.05人/10万人くらいはあり得るが勢いで0人といってしまったが)。スクリーニングと関係ない100人を越えるがんが何十年もおとなしいままでいたり消えたりといった都合の良いデータはどこにもない」と意見を述べた。

残念ながら反論もなく時間に逃げられその後の論議は続かなかったが、シンポジウムの雰囲気がガラッと変わったと思ったのは私の主観だったろうか。主催者側が今後の甲状腺検査縮小の方向でまとめられなかったこと、などから一石を投じた論議にはなったと思った次第である。

大手前整肢学園 山本