福島の先天異常は増えていないか ―EBMの発展をめざすシンポジウム2018報告④(NEWS No.519 p06)

僕の担当は、福島での先天性異常・奇形の増加に関するものであった。県では、妊産婦健康調査を実施している。妊娠届出者を対象に、出産予定日を過ぎた頃に、アンケート用紙を郵送し、回収している。回収率は50%程度で、アンケート調査としては、回収率は高い。県民健康調査検討会で、毎年2月に妊産婦健康調査報告がされている。
2011年度から2016年度の調査結果の内、各年度の先天性異常・奇形の全数は表1のようになっている。

県の報告では、「一般に先天性異常の発生率は3~5%であり、増加しているとは言えない」と済ませてしまっている。
しかし、この結果からも言えることは、2011年度の異常の発生率2.85%は2012年度以降に対して有意に高値であるということである。何らかの要因で、原発事故直後の2011年度の先天性異常の発生率が統計的に有意に増加していたということは明確である。
さらに、比較検討する際の「一般に先天性異常の発生率」とはいかなるものであろうか?福島県の調査は出産直後に行われているのに対して、就学前の調査だと幼児期に見つかった異常が加算されることになるから数値が高くなるのは当然である。何と比較するかは十分吟味されなくてはならない。
福島県と同様のアンケート調査は他県での実施はなく、福島県での2010年度以前の調査も存在しない。

そこで、今回、「国際先天性奇形調査(WHO ICBDSR)」の一環として、日本産婦人科医会が行っている調査のデータが一部公表されているので、それとの比較をおこなった。
調査時期としては妊娠中から新生児期までに発見されたものが主であり、アンケート調査と近い時期であると考える。
放射線による障害として四肢奇形が指摘されていることから、肉眼で確認が可能で、形成外科的に手術が必要であり、医師と親の認識に差がほとんどないと考えられる、多指趾合指趾症の発生状況を比較した。
福島のアンケート調査の集計「多指合指症」に対応する日本産婦人科医会の集計は、多指趾・合指趾症を多指と多趾と合指と合趾の4分類した後、ゆび(指趾)の位置を母指趾側・中央側・小指趾側・不明の4分類にさらに分類して、合計16分類に分かれている。
この16分類をすべて掲載しているのは1999年と2000年の報告だけである。2001年以降は全疾患の上位20位までの掲載となっていて、すべてを集計することができなくなっている。
結果として、発生率は0.246%(95%信頼区間が0.198%~0.294%)に対して、日本産婦人科医会の1999年と2000年の多指趾・合指趾症の発生率は0.192%(0.190%~0.194%)であった。
限界性のあるデータの分析ではあるが、先天性外表異常の増加を示唆する結果であり、日本産婦人科医会の調査の詳細なデータ公開を求めていく重要性が会場からも指摘された。都道府県レベルでの比較分析や福島県での2011年前後での比較によって、より信頼性の高い分析が可能となるはずである。

保健所 森