ねじ曲げられるエビデンス-改ざんされる福島甲状腺がんデータ~甲状腺がん患者除外問題の分析 ―EBMの発展をめざすシンポジウム2018報告⑤(NEWS No.519 p07)

昨年3月以来、4歳の甲状腺がん患者を福島県民健康調査・甲状腺検査の報告から外していた問題が大きな問題となっています。諸報道によれば、「事故当時4歳の男児で、福島県民健康調査の2巡目の検査で2次検査を受診。経過観察を経て、2015年に穿刺細胞診で悪性と診断されたという。2016年の前半に、すでに福島医大で甲状腺の摘出手術を終えている」というものでした。甲状腺がん隠しではないかと批判が高まる中、この問題は、1年後の本年7月に第10回甲状腺検査評価部会に報告されました。内容は「甲状腺検査集計外症例の調査結果の速報」と題したA4版1枚物の簡単な資料でした。

中身は甲状腺検査との関係による内訳と称して、1)福島医大で手術した甲状腺がん患者(2011年10月~2017年6月)158人中で11人(7%)が「県民健康調査」集計外でした。2)11人の内訳です。7人(64%)は「保険診療による経過観察を経て手術をされた患者」、3人(27%)は「甲状腺検査とは無関係に受診した患者」、1人(9%)は「一次検査でB判定、二次検査を経由せず受診した患者」と分類され報告されていました。

ここに重大な内容が触れられています。すなわち、甲状腺がんであっても公の公表データから甲状腺がんを隠すことが可能となる三つのルートが成立している事実です。第一のルートとして、「県民健康調査」の2次検査では細胞診は未実施とし、「保険診療による経過観察を経て細胞診で診断し手術をする」こと。第二に、「甲状腺検査とは無関係に受診した患者」=たとえば、甲状腺のしこりや嗄声、嚥下障害などの甲状腺がんの症状を有して検診とは別に「有症状」で医療機関受診した場合です。第三に、「一次検査でB判定、二次検査を経由せず受診した患者」=一次検査後、何らかの理由で検診フォローから脱落していた患者が受診した場合、です。

さらに、第4のルートとして、福島医大以外で手術をした患者は集計されておらず、闇の中のままになっています。「保険診療による経過観察として福島医大以外で手術をする」ことで、また隠すルートが成立しています。これらの患者数は、今回の発表では7人(第28回調査時点=2017年10月23日発表で、2017年6月30日現在の集計)ですが、最新の(第32回調査時点=2018年9月5日発表、2018年6月30日現在の集計)では、未集計者が17人存在し、内訳の公表が求められています。
これらは、公の公表デ-タから甲状腺がんを隠すことが意図的に可能となるルートが成立している点で重大な問題です。通常の研究では、このような行いは、重大な研究不正=データの「改ざん」に該当し、厳しく批判されるものです。

*「改ざんは、研究資料、研究機器、研究改訂を操作すること、あるいは、データや研究結果を変更、あるいは除外することにより、研究記録と正確には合致しないように研究を変えてしまうこと」である。アメリカ国立科学財団(National Science Foundation)

このようなことが行われた背景ですが、本ニュ-ス2017年4月号に、林敬次氏が「福島県県民健康調査の疑惑が発覚」と指摘されているように、被爆後に甲状腺エコ-で結節を有する者は、その後のがんを発症するハイリスク患者群であることを福島医大側が明確に認識していたことがあると考えられます。

私たちは、(1)集計から除外された患者の全数の経過を把握し公表すること、(2)甲状腺がんの発生実態の全容の把握を求めていかねばならないと考えます。

高松勇(たかまつこどもクリニック)