コクランセンターの状況 -HPVワクチンをめぐってー ―EBMの発展をめざすシンポジウム2018報告⑥(NEWS No.519 p08)

今回の発表は9月号の記事と重なることが多いので、ご了承下さい。

<コクラン行動計画とは>

コクラン(共同計画)は、それまでの臨床現場での非科学性を打ち破るべく、臨床的に意義のあるテーマで、英語論文だけでなく世界中でなされた臨床研究を集めて評価します。それらを統合(メタ分析)して、現状での結論を出し、今後の研究方向も示します。そのレビューは急速に権威を高め、今では世界で最も権威ある基本的な文献となっています。他方で、科学性を拒む企業の利益との矛盾の影響を強く受けるようになっています。その中で、今回のHPVワクチンのレビュー問題が生じました。

<医問研とコクラン>

医問研は、日本では早くから「全般改善度」などの非科学的な薬剤評価方法との闘いの延長として、コクランに参加し、「抗痴呆薬」(橋本健太郎氏、柳元和氏ら)や「経口抗アレルギー剤」(著者ら)のレビューに取り組みました。

2009年の「新型インフルエンザ」大流行時に、抗インフルエンザ薬でコクランの抱える基本的矛盾を明白にするきっかけを作りました。それは、製薬企業によるデータの様々な操作と対決しなければ科学的なレビューはできないことでした。T.ジェファーソン氏らはBMJ・BBC放送と連携し、元のデータを製薬企業に出すよう闘い、勝利しました。

<HPVワクチンのレビュー問題>

今回のHPVレビュー問題はその基本的矛盾の結果でした。抗インフルエンザ薬と同様、莫大な利益がかかったテーマです。
レビュー結果は、HPVワクチンは効果があり害もほとんどないというものでした。

抗インフルエンザ薬のレビュー以来、このようなテーマでは、刊行されたデータだけでなく、製薬会社が行った試験の元データを分析することが基準となりつつありました。その基準からすれば今回のレビューは大変不十分なものでした。

ピーター・ゲッチェらノルディック・コクランの2人とトム・ジェファーソンらは以下の批判をしました。1)レビューに含む26RCTの他に20RCTが見逃されている。2)対照がプラセボでなくアジュバントなどのためワクチンの害作用がマスクされている。3)アウトカムががんでなく、代理アウトカムでかつ混合(CIN+2とCIN+3など)している。CIN3+単独では有意差がない。4)重症・全身的害の評価データが不十分、5)安全性シグナル(重症害反応と関連するかも知れない「起立性頻脈」など)の評価がない、6)レビューアーに強い利益相反がある、などです。

この批判に対する、コクランの正・副エディターの反論は不十分に思われます。それに対するピーターらの再反論をシンポジウムの後詳しく読みました。それによれば、今回のコクランレビューは企業側が長期の準備の後に、巧妙で手の込んだ手法により、ワクチン有利の結論を出していると思われました。

<コクランの危機にどうするか>

その後、製薬企業の不正を厳しく批判していたピーター氏を、コクランが不明瞭な理由で除名したことはコクランの危機的状況を表しています。医問研も日本コクランへの働きかけなど、行動が求められていることの必要性が議論されました。

はやし小児科 林