控訴審に向けた思い(NEWS No.522 p04)

「国と東電は、私達原告を見捨てようとしています」こんなフレーズから私の意見陳述は始まりました。私たち福島県や近郊県からの避難者が提訴した原発賠償京都訴訟の控訴審が昨年 12 月 14 日から大阪の高等裁判所においての一場面です。この裁判は、私たち避難者を通じてこの紙面を読んでくださっている先生方の権利でもある「放射性物質拡散による放射能の被ばくから逃れる権利」はこの裁判に勝たなければ得ることはできないからです。とてもシンプルなことですが、私たち避難者はあの時、逃げざるを得なかったのです。
私たちが後ろ髪引かれるように後にした「水は清き故郷」は、後戻りができないほどに放射能に汚染されてしまいました。しかしながら、国や東電は健康影響が確認できない程度の被ばくだと言います。そして、今でも引き続き不当に被ばくを受け入れなければならない現実が横たわっています。
3月11日の福島第一原子力発電所の爆発事故による放射性物質の拡散が始まった直後から国と東電は、「放射能汚染と被ばくを、さも影響も何もなかったことにするため」に、行政、マスメディア、教育をとおして人々の心を巧みにコントロールしてきました。
法廷内で被告側はまず、「避難者はただ不安から逃れるために逃げた特別な人たち」というイメージを裁判官へ植え付けさせました。
1日でも早く原発事故は無かったのだと世間へ印象付けるために、避難者たちの命を育む避難者用住宅から避難者たちを強制的に追い出し、世界中の人々から国際法違反だと批判されていても国民に知らされることはありません。
ご存知のとおり、放射能汚染による人々の甲状腺ガンの多発においては、国が子ども達の多発をようやく認めても、原因を福島第一原子力発電所の爆発事故による放射性物質の拡散とは決して認めていません。
「3人の原審裁判官を含む国民の「命」よりも経済最優先のこの国のあり方を、私たち原告は到底許すことはできません。ならぬものは、ならぬのです」一呼吸置き、そして、被告側へ目をやりながら私は、大きな声で叫びました。
事故当時、未来ある子どもたちさえ守らない国だと知った時、家族とりわけ子どもたちを守るのは自分しかいないと原告の私たちは思いました。
迷いながらも生活基盤であるあらゆる事を天秤にかけ、年老いた親や、子どもたちが健康でいられる事を最優先に住み慣れた土地を離れることを決断し、様々な行動をしてきました。
「放射能は目に見えない、感じられない、本当に恐怖そのものなのです。被ばくを避けるため避難したことは、特別なことではなく当然のことなのです」
原発事故はいまだに収束していない、危険な状態が続いています。「避難者はどうして戻れるのでしょうか」目の前にいる 3 人の裁判官へ訴えます。
思いがけない困難を覚悟して避難を決断した障害をもつ人たちの壮絶な避難生活、避難してもまた避難元へ戻ることを多くの葛藤の中で苦渋の決断をした原告たちの思い。提訴してからこの 6 年間は、私たち避難者が決断した「あの日」の想像をはるかに超えるとても険しい道のりでした。裁判官のみなさまにはその一人一人にどうか思いを馳せていただきたい、心からそう訴える陳述は続きます。
原発事故当時、テレビでしきりに国が使った「ただちに健康に影響はありません」というもの。さて、「ただちに」とはいつまでなのでしょうか。すでに影響があるかもしれない時期に来ていると国さえもようやく認めてきたのです。出来るだけ追加被ばくを避け、安心して暮らしたいと願うのは原告のみならず国民の当然の思いであります。
この裁判を早く終わらせて、国と東電は事故そのものの責任を認め、すべての国民の命を守ることに舵をきっていただきたい。そんな話し合いのテーブルが設けられるのはいつなのでしょうか。早くそんな日を迎えなければと思いつつ、「裁判官の皆さんも決して他人事ではないのですから、我が身に置き換えて考えてほしい」と心から訴えました。
私が自分の中の気持ちをすべて吐き出すように最後に訴えたこと。
「私たちの避難の権利を認めて下さい‼ 私たち原告一人一人の「命」と裁判官のみなさまの「命」と向き合って判断してほしいと強く望みます」
私の意見陳述は、原告一人一人の命を懸けた思い、そしてこれまでに受けてきました医療問題研究会の先生方、多くの支援してくださるみなさまとの出会いで感じたこと、多くの「心」が込められたものが文章になったものです。裁判官に届き、勝訴へと導かれるよう強く望んでいます。
原発賠償京都訴訟原告団共同代表 福島 敦子

原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会
ホームページ http://fukushimakyoto.namaste.jp/shien_kyoto/

(写真・文:同ホームページより)

昨年「3月15日、原発賠償京都訴訟の一審判決が出されました。私たちの判決に、世界中のみなさまが心をお寄せくださり、結果は、東電のみならず国の責任を明確に認めた「一部勝訴」というものでした」

原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会のブログ
https://shienkyoto.exblog.jp/

(写真:同ブログより)福島さん達