くすりのコラム ベンゾジアゼピン剤長期処方減算について~処方自体も限定すべき(NEWS No.522 p08)

厚労省医薬・生活衛生局は2017年3月21日、催眠鎮静剤、抗不安剤、抗てんかん剤で使用されるベンゾジアゼピン受容体作動剤などの医薬品について、承認用量の範囲内でも漫然とした継続投与により依存性が生じることがある(常用量依存)として、医療現場に注意喚起するため44成分の添付文書を改訂するよう、日本製薬団体連合会に通知で指示している。44成分中、抗てんかん剤として位置づけられるクロナゼパムやクロバザムを含む33成分がベンゾジアゼピン受容体作動剤に該当する。
2018年度診療報酬改定では、ベンゾジアゼピン(BZ)受容体作動剤(以下BZRA:BZ系薬剤と非BZ系薬剤を含むBZ受容体作動剤すべて)の長期処方に対して処方料・処方箋料が減算対象となっている。(処方料 18点 処方箋料 28点)。算定要件は、2018年4月以降の処方で、BZRAを1年以上連続して同一の用法・用量で処方している場合。ただし、精神科の医師から助言を受けて処方した場合、不安または不眠に関する研修、精神科薬物療法に関する研修のいずれかを修了した医師が処方した場合は、通常の処方料・処方箋料で算定できるとしている。
BZRAの抗不安剤や睡眠剤は常用量でも長期服用で依存を生じ得る。吐き気、頭痛、めまい、転倒などの副作用で、交通事故が2.2倍に増加し、高齢者だと転倒による大腿骨頸部骨折が1.6倍に増加するという報告もある。
すでに厚生労働省は2014年から、向精神薬(抗不安剤、睡眠剤、抗うつ剤、抗精神病剤など)を3種類以上処方するときの処方料、処方せん料を段階的に減点してきた。厚労省は「向精神薬の多剤処方の適正化推進をより強化することが目的」とするが、これまでの診療報酬改定の効果は限定的だった。既に多剤併用となっている患者の減薬が難しい一方で、漫然とした長期服用によって新たに多剤併用になる患者が増えている可能性もあった。今回、BZRAの単独投与でも長期投与であれば減点する仕組みが導入されることになった。
一方、薬剤師や看護師などと協働して減薬に取り組むと新たに診療報酬が得られる枠組みが新設された。向精神薬調整連帯加算を処方料、処方箋料に追加できる。向精神薬を多剤併用もしくは長期服用している患者について、減薬した上で薬剤師などに患者のフォローアップを指示した場合に算定する。12点上乗せされた処方料と処方せん料は54点、80点。多剤処方の状態と比較すると約3倍になる。患者の離脱症状などを早期発見することが目的とする。
EMA(欧州医薬品庁)のガイドラインはBZRAに関して、依存や離脱症状について詳細に、具体的に述べている。服用期間については、抗不安剤としては8-12週間まで、睡眠薬としては2-4週間までを限度とするとしているが、日本では長期使用が常態化している。日本はBZRAの処方量、種類とも国際的に突出しており、BZRA大国といえる。
BZRAは精神科だけでなく内科や整形外科(肩こりや腰痛に筋弛緩作用を期待して処方すると考えられる)などでも多用されている。不眠や不安に対しては、処方前に非薬物療法(睡眠衛生の指導や認知行動療法など)を行うべきである。BZRAを処方する場合でも、依存や認知機能低下、事故などを防ぐためにも、処方対象も期間も限定するのが原則であり、BZRA使用の適正化に厚労省が介入したとみることができる(現実的には減量に取り組むのが困難なケースも少なくないが)。この点は評価しうるが、一方では非BZRA系睡眠剤(ナルコレプシーの病態を人工的につくり出すベルソムラなど)への誘導にも警戒しなければならない。

いわくら病院 梅田

参考:主に以下のサイトを参考にした。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201803/555286.html
http://www.truthaboutpsychiatry.net/EU.pdf