臨床薬理研・懇話会2月例会報告 シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第45回(NEWS No.523 p02)

臨床薬理研・懇話会2月例会報告
シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第45回
膝関節痛に対する医薬品・サプリメント長期使用の有効性安全性 (グルコサミン)

膝関節痛は高齢者に罹患者の多い疾患です。JAMA誌最近号(2018; 320: 2564-79)が、変形性膝関節症患者の疼痛に対する長期薬物療法のシステマティックレビュー・メタ解析論文を掲載しています。バイアスのリスクが高い試験などを除外した場合、効果の程度は大きいものではないがグルコサミン硫酸塩のみが有意に疼痛などを改善したとしています。今回はこの論文を取り上げました。またこの論文は、最近多く用いられているネットワークメタ解析(NMA)を用いており、この手法もみていきます。
変形性関節症は慢性で進行的な疾患ですが、長期間(12か月以上)の薬物効果の研究は少なく、そのため長期間管理の推奨が明確でないため、この研究を行ったとしています。データ抽出・合成の対象となった文献は47のランダム化比較試験で、55-70歳がほとんどの22,037患者を含み、33の薬物治療介入が含まれています。データの合成はベイズ法の変量効果を用いたネットワークメタ解析を行いました。プライマリーアウトカムは膝疼痛におけるベースラインからの平均変化です。2次的アウトカムは身体機能と関節構造 (関節腔が狭くなっている程度をレントゲン映像で測定)で、標準化平均差 (SMD)と 平均差(それらの95%信頼区間) を計算しています。観察期間は1年から4年です。
疼痛の減少がみられたのは、非ステロイド性抗炎症剤セレコキシブと変形性関節症の症状に遅効性に作用する薬剤グルコサミン硫酸塩でした。バイアスのリスクの高い試験を除外して解析した場合には、セレコキシブの効果は消失し、グルコサミン硫酸塩のみが有意な疼痛改善効果を示しました。関節腔狭窄の改善効果はグルコサミン硫酸塩、コンドロイチン硫酸、ストロンチウム・ラネレートにおいてみられました。グルコサミン硫酸塩は、疼痛、身体機能、関節構造(関節腔の広さ)のいずれでも有効性を示しました。
著者たちは、変形性膝関節症を有する患者を12か月以上フォローアップしたこのシステマティックレビューとネットワークメタ解析において、プラセボと比較したすべての比較において疼痛変化のエフェクトサイズの推定値に不確実性が存在したこともあり、有効性をめぐっての不確実性を解決するために大規模なランダム化比較臨床試験が必要と結論付けています。なお、エフェクトサイズとは、群間での平均値の差の検定、変数間の関連の強さなどを、データの単位に左右されないよう標準化したものです。
この試験では、データの合成にネットワークメタ解析 (network meta-analysis , NMA)という、複数の治療法の有効性比較 (comparative effectiveness)を評価するため近年新たに開発されたエビデンス統合の手法が用いられています。ネットワークメタ解析は、多重治療比較メタ解析とも呼ばれます。この論文の著者たちは「ネットワークメタ解析は介入を比較する多くの試験のネットワークにおける直接的および間接的エビデンスを合成する。この方法は、ランダム化比較試験におけるhead-to-head の比較が乏しい中で、すべての使用可能な変形性膝関節症薬剤のプラセボに対する比較と、薬剤同士の比較ができる方法である」と記しています。ネットワークメタ解析の論文は、プロトコール・詳しいデータなどがインターネット付録として公開されることが多いのですが、このJAMA誌論文にも数百ベージにわたる付録があります。

数字は試験数です。直接比較のエビデンスだけではすべての治療の比較有効性を評価できないため、ネットワーク上の間接的な連絡のあるパスの情報も活用します。薬剤のどんな組み合わせも比較でき、コンピュータを使えばそれらしい結果が出る「玉手箱」のような方法です。しかしネットワークメタ解析の結果を読んだり、ネットワークメタ解析を利用するときは、批判的吟味が必要です。
1) 解析対象の試験が増えたので「試験間の異質性」(類似性)が問題となります。
2) 対で比較するメタ解析にはなかった概念で、「間接比較と直接比較の結果の『一致性』」(矛盾がない)が問題となります。
統合は各試験の結果が「本質的に異質でないこと」が前提です。しかし実際には結果に影響を与えてしまう重要な要因(例えば選択・除外基準、用法・用量、評価項目の定義、施設の背景、医療環境など)が試験間で異質となってしまうことの方が一般的なのです。

当日のディスカッションでは、「さらに大規模なランダム化比較臨床試験が必要」と結論されていることについて、「安価なグルコサミンなどの有効性検証試験を企業はやらないだろう。膝関節の痛みを訴える患者は非常に多い。米国NIH(国立衛生研究所)が降圧剤の比較有効性研究に公費を投じて利尿剤の有用性を示したように、日本でも AMED (国立研究開発法人日本医療研究開発機構)が取り組むべきことでないか」との意見が出されました。また論文に「グルコサミンは医薬品規格のグルコサミン硫酸塩が有効で、他の塩やサプリメントは有効でなかった」との記載があることについて、欧州は医薬品規格のグルコサミンがあるが、米国や日本にはなくサプリメントだけである。米国のサプリメントは一般に品質が良くないことが知られている。日本のグルコサミンのサプリメントはどうなのか」の疑問が出されました。

薬剤師 寺岡章雄