第11回「低線量被ばくを考えるセミナ-」(主催:大阪小児科学会地域医療委員会)に参加して(NEWS No.524 p07)

上記セミナ-が4月6日に大阪で開催された。「低線量被ばくのリスク-医療被ばくから東電原発事故による被ばくまで-」と題して、崎山比早子(さきやま ひさこ)氏(高木学校)が講演をされた。セミナ-の講演を通じて、低線量被ばく問題の重要性を再確認したので報告する。

講師の崎山氏は、原子力発電と放射線、放射線が身体に与える影響、医療被ばくのリスクなどを永年にわたり研究されてこられた医師である。福島事故に関しては、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調) 委員をされておられた経験も踏まえて東電原発事故による被曝問題に精通されている。

この日の講演の主眼は、100ミリシーベルト以下の低線量であってもリスク(健康障害)は確実に存在する。低線量被ばくのリスクは、放射線の被ばく線量と影響(健康障害)の間には直線的な関係が成り立つ。すなわち、しきい値がなく放射線の被ばく線量と影響の間には、直線的な関係が成り立つという考え方を示された。

国や福島県の事故による健康障害を考えるうえで現在の大きな対決点となるところである。すなわち、国は「100ミリシーベルト以下の低線量被ばくの場合には放射線の発がんリスクは実証されていない。発がん率の増加はあったとしても小さく、自然の発がんの地域差や人種差のなかに埋もれて疫学的に証明するのは困難と考えられる」(2011年低線量被ばくワーキンググループなど)と低線量被ばくの危険性を公然と否定する。さらにその考え方が、「国際的である」とも主張する。そして、低線量被ばくリスクを軽視ないし無視する放射線専門家集団の主張が通り「100ミリシーベルト以下では放射線によるがんの多発は起きない」と言う間違った安全神話によって政策がすすめられている。

その考え方に基づき、本来国のなすべきことは、放射線被ばくが避けられない地域から住民を遠ざけておくことであるのに、年間20ミリシーベルトまでの限度線量の地域に住民を帰還させるという政策を行っている。また、多くの学術団体が、この考え方に異を唱えず容認しており、東電と国の責任を問い賠償を要求する「避難住民による損害賠償訴訟」判決でも、裁判所は国側意見に重きを置いて判決が出されている現状である。

崎山氏は、この低線量被ばくのリスクは、福島事故以降に多く発表された世界の疫学調査によって実証されたものであることを主張された。英国における小児CT検査と白血病、脳腫瘍の発症、オ-ストラリアのCT検査による小児がん発症の増加など、数多くのがん発症の増加を示す証拠を列挙され、もはや世界的に疑いのない事実であることを示された。日本の放射線専門家集団は、この原子力推進側の世界の「基準」すら認めていない、きわめて偏った主張を唱えているのである。

東電と国の責任を問い賠償を要求する「避難住民による損害賠償訴訟」で、原告・避難住民側に立って避難の権利を科学的根拠に基づいて正当化することを主内容とした意見書を、千葉、京都、東京地裁に提出しておられる。この崎山意見書に対して、国側は17名の連名意見書を出して、低線量被ばくのリスクを不必要に危険視し、被ばくの恐れを煽るものであると、また国際機関の合意に反すると、さらには、福島の復興が遅れることになると主張している。

崎山氏は、最後に、低線量放射線リスクを軽視ないし無視する放射線専門家集団から身を守るために、低線量被ばくでもリスクが存在し健康障害が生じるという事実を確認し社会に広め裁判でも勝っていこう、と訴えられ締めくくられました。崎山氏の少しも怯むことなく反論をされ、凛として原子力村と立ち向かっておられるお姿に参加者一同は強い感銘を受け、エネルギーをいただいた講演であった。

高松勇(たかまつこどもクリニック)