便秘薬ポリエチレングリコール製剤を推奨(NEWS No.524 p08)

以前、便秘の薬を調べた時にイギリスのNICEガイドラインには第一選択薬としているポリエチレングリコール(以下PEG)製剤が発売されていないことに疑問をもちました。しばらくして「日本小児栄養消化器肝臓学会」がこの薬を認可するように厚労省に「要望書」を出し1)、やっと2018年11月にPEGに電解質を加えた商品名「モビコール」が発売されました。
この製剤の成分は大腸内視鏡などのための一度に多量使う腸管洗浄剤(「モビプレップ」など)として日本でも使用されていたものです。
ご存知のように、便秘薬には浸透圧性下剤(ラクツロースや酸化マグネシウムなど)、大腸刺激性下剤(センノシド、ピコスルファートナトリウム水和物など)と、上皮機能変容薬(ルビプロストン)などがあります。

<PEG製剤「モビコール」>

浸透圧性下剤でPEGが浸透圧により腸管内の水分を増加させることにより排便回数を増やします。イギリスでは、1995年成人に、2002年2-11歳の小児に認可され、NICEガイドラインでは0才にも勧められています。2018年6月現在、世界37か国で認可1)されています。

<副作用>

同じ浸透圧性下剤のマグネシウム(以下Mg)製剤は、まれに高Mg血症による重篤な副作用の報告があります。(ただし、子どもの場合は、ショック状態やよほど特別な場合を除き、これまで高Mgなど重篤な副作用の報告はないとのことです2)。)そのため、成人特に高齢者でのマグネシウムに代わる便秘薬が求められていました。その点でPEG剤は特に禁忌がなくほとんどの人が使用できますから大きな意味をもちます。もちろん、副作用もあり、ネットなどでもアレルギーなど多くの報告が記載されていますが、重篤なものはほとんど見当たりません。

<効果:表参照>

それでは、効果はどうでしょうか。大人対象のレビュー文献に、ちょうど医問研例会で勉強した「Net Meta-analysis」の報告3)があります。それによれば、モビコール(PEG+電解質)との比較では、便秘薬の効果の主要評価項目である排便回数が、プラセボよりは週に1.9回多く、ラクツロースよりやはり1.9回、セロトニン拮抗剤より1.4回多くなるとなっています。大人に関する普通のシステマティックレビュー4)でもPEGは偽薬より週1.98回、ラクトースより週1.0回多く排便があるとしています。(PEG単独と電解質添加とで効果の差はなし)

子どもに関する、コクラン・システマティックレビュー5)では、プラセボより排便回数が週2.61回多く、ラクツロースより0.95回多く(追加の便秘薬の必要性が少なく)、Mg製剤より週0.69回多くなっています。副作用に関しては、子どもの場合は、その他の浸透圧性下剤との間に差がないとのデータです。
なお、NICEガイドラインには、子どもの場合でもマグネシウム製剤の記載がありません。この理由をお分かりの方は教えてください。

<使ってみて>

2才未満に使えないことが不便ですが、粉を水に溶かして飲むのですが、ほんの少ししょっぱい味がするだけで、他のお好みの飲料水に混ぜることができ、嫌がるお子さんはいません。また、禁忌もほとんどありませんので安心して使えます。排便時に時に1時間も泣き続けるお子さんなど、Mg製剤などでもなかなか改善しなかった子が、モビコールに代えてほぼ毎日良い便が出るようになるなど、少ない人数ながら良好な結果が得られています。

1)要望書 医薬・生活衛生局医薬品審査管理課2018年9月5日  モビコールの審議結果報告書などより
2)酸化マグネシウム製剤服用中の高マグネシウム血症に関する提言- 医療従事者の方へ -2015年12月小児慢性便秘症診療ガイドライン作成委員会
3)Katelaris P et al. BMC Gastroenterology 2016; 16; 42.
4)Belsey JD et al. Int J Clin Pract 2010; 64: 944-55.
5)GordonM et al. Evid Based Child Health 2013; 8: 57- 109.(コクランと同じ報告がフリーで得らえます。)