がん登録から見た癌罹患率の推計(NEWS No.525 p07)

がん登録制度とはがんを診断した医師が診断名と診断日を登録するものですが、死亡診断書の死因からのがん情報を取り込んで補完しています。

<がん登録=診断した医師の登録と死亡診断書のがん情報で補完>

【DCN割合】

そして、その年にがん登録されてその年に死亡した患者数とがん登録をされずに死亡診断書で初めて把握されたケースを加えた「死亡数」の内、死亡診断書で初めて把握されたケースの割合をDCN割合といいます。

<DCN割合=死亡診断書のみ数/(がん登録死亡数+死亡診断書のみ数)>

このDCN割合は実際の死亡例の内、どの程度ががん登録をされているかを示す指標となります。そして、「非死亡患者についても同程度の登録率である。」との仮定(何の保証もないが)の下に、全罹患者を推計することができます。 実際、「全国集計」の各がんの推計罹患率は、登録精度が一定以上(DCN<25%かつIM比≧1.5)の都道府県を選んで集計し、その年齢調整罹患率を算出した後に、DCN割合で補正することで推計されています。

【IM比】

DCN割合と並んで登録精度を検証する指標として上述のIM比があります。 これは登録患者数が死亡患者数の何倍になっているかを示すものです。

<IM比=登録患者数/死亡患者数>

死亡患者数は死亡届けによって確定しますが、生存患者数は登録に依存しています。IM比の増加は登録の増加と治療成績の向上による生存率の改善によっても増加します。
表1は全国の全部位のがんの推計罹患率に加え、DCN割合とI/M比の2008年から2014年の推移です。

2008年から2011年まで推計年齢調整罹患率が毎年3%程度増加しています。これは、登録率の改善による年齢調整罹患率の増加をDCN割合の改善で補正をしてもカバーしきれず、DCN割合の改善以上の登録率の改善があったことを示しています。I/M比が2008年から2010年にかけて年5.5%も上昇したように、この期間に生存患者の登録数が特に増加したことによると考えられます。
2011年以降は安定していることと、全がんの5年生存率が2年で0.3%上昇なので、この間の推計年齢調整率(DCN割合で補正)の増加は生存患者の登録数が特に増加したことによります。
このように登録の精度に左右されることの大きいがん登録からのがん罹患率の推計ですが、2010年からは比較的安定してきているといえます。これは、2007年に成立したがん対策基本法の制定で、各地にがん基本病院が指定され、健康保険の入院時医学管理料に反映されることから、がん登録等に取り組む病院が増え、がん登録の精度があがってきたという事情が背景にあります。
全国のがん推計年齢調整罹患率については以上ですが、都道府県の各がん集計については、年齢調整罹患率のみで、推計(DCN割合で補正)年齢調整罹患率を算出していませんので、各県レベルでの罹患率の推移や他県との比較をするには、各県データをDCN割合で補正する必要があります。

次回はその結果をまとめて、各種がんの福島県等での増加をお示ししたいと思います。

保健所 森