「福島の原発事故後の甲状腺がん検出率と外部被ばく線量率との関係」という医問研とドイツの研究者との共著論文が国際雑誌Medicineに掲載されました(NEWS No.529 p01)

2011年の原発事故を契機に始まった福島県県民健康調査で行われた甲状腺検査による甲状腺がんは、2019年3月31日現在3巡目までの検査で合計で211名を数えています。先行検査を除いた2巡の本格調査でも4年間で合計は95名(71/270516、24/246687)、罹患率で言っても約18名/10万と、国の0-19歳の累積罹患率0.1、0-24歳の0.4(2015年)のそれぞれ約35倍、10倍となっています。

依然として甲状腺がんの多発が続いているのですが、県(そして背後の国、原子力村)は幕引きを図ろうと躍起になっています。多発と原発事故は無関係と居直り、「多発は見せかけであり、放射線被ばくではなく、スクリーニング効果や過剰診断による見せかけの多発」論を綿密な資料提供もなく強引に進めようとしています。

いち早く多発はスクリーニング効果や過剰診断によるものではないと唱えたのは岡山大の津田氏ですが、これに対し、今日まで権威筋はまともな反論ができていません。一方で放射線量と罹患は関係ないというごまかしの論文や委員会評価を医療関係者にださせながら、避難は意味のないというキャンペーン、司法も動員した補償の打ち切りと汚染地区への帰還の実質的強要、許容線量のなし崩し的かさ上げや汚染地区でのオリンピック競技開催などの方策が進められようとしています。このような中で、甲状腺がんの多発は、放射線被ばくによるという結論を実証した本論文(難しく言うと、福島59市町村の間で、文科省/UNSCEARの公表した外部被ばく実効線量と甲状腺がん検出率比の間に有意の容量反応関係が認められると結論した論文)の意義は大きいと思います。実は本論文は、査読者のある(専門家といわれる人のチェックを受ける)雑誌で、査読者の多くからはWonderfulといわれながらも、一年半にわたり各雑誌の編集者から断られ続けた末にMedicine誌 に掲載されたものです。

現在もっとも被害がはっきりしている小児の甲状腺がんに焦点を当て、スクリーニング検査をきっかけに診断されたがんの頻度を、原発事故からの観察期間を踏まえた検出率として地域ごとに比較したのが本論文の“きも”であり、これには医問研の2名の共著者が貢献しているところです。低線量被ばくに警鐘を発した2つの本の出版、避難者健康相談会への参加と避難者からの深刻な相談への対応、避難者を支援する方々との交流、放射線被ばくや原発と何年も闘ってきた国内外の方々との交流などから本論文は出来上がったものです。もちろん、本論文の完成、採用には著者の一人であるドイツの統計学者Hagen Scherb氏の尽力によるところが大きく筆舌に尽くしがたいのですが、氏の避難された方々への気持ちと、一つの数字を確定するために何回もメールをやり取りしたように、氏の科学的真実を追求する姿勢には多くを学ばせていただきました。
多くの、今後とも闘いを継続させる方々の一助になればと思い、医問研ニュースの本号で急きょ紹介させていただきました。次号に内容を紹介する予定です。

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