Medicare for Allの実現を!(NEWS No.531 p04)

米国では2018年に無保険者が2750万人に達した。被保険者でも高額医療費が破産の原因となっている。民主党の次期米国大統領候補に名乗りを上げているバーニー・サンダース上院議員は4月10日、「Medicare for All(MfA、すべての人への公的医療保険)」という包括的な公的医療保険制度を創設する法案を上院に提出。米国民主主義的社会主義者(DSA)、民主党左派、医療関係者の団体などもMfA導入を求める運動に活発に取り組んでおり、全米で議論の的になっている。

MfAはメディケア、メディケイドなどの医療保険と医療扶助の制度を統合し、すべての米国居住者が加入する単一の公的医療保険制度の創設をめざす。入院治療、外来診療、処方薬、検査などの費用、高齢者ケアと障害者ケアをも保険対象に含む。医療やサービス利用時の自己負担は原則として発生せず、費用のほとんどがMfAから支払われる。民間医療保険にある免責額の制度(保険からの給付がなく被保険者の自己負担となる金額)もない。

サンダースはMfAの主な財源として以下を挙げている。(1)被雇用者は所得の4%を新たに創設される基金に保険税として納める。(2)雇用主は収入の7.5%を基金に納める。(3)連邦所得税の累進性を高めて税収を増やす。(4)相続税の累進性を高めて税収を増やす。

米国には包括的な公的医療保険制度がない。民間企業従業員は、民間保険会社の医療保険に加入しており、総人口の約64%を占める。民間医療保険の55%が加入するのが雇用主提供医療保険。個人向け保険では保険料の約18%を、家族向け保険では保険料の約28%を従業員が負担しなければならない。

民間医療保険の対象外となる人々に対しては、準・公的医療保険制度である高齢者・障害者対象のメディケアと低所得世帯向けの医療扶助制度メディケイドがある。メディケアは連邦政府が運用、メディケイドは州政府が運用する。

2010年にオバマ政権のもとで成立した患者保護および医療負担適正化法(「オバマケア」)は無保険者問題に対応しようとした。これまで、自営業者か中小企業の従業員は、民間保険加入ができない上にメディケアやメディケイドの受給もできなかった。オバマケアは、従業員50人以上の企業に対して民間保険提供を義務づけ、無保険の自営業者等に対しては補助金を支給することで民間保険加入を義務づけた。オバマケアはまた、メディケイドの対象となる世帯の所得を連邦貧困ラインの138%に拡げ、男性が世帯主の低所得家庭にもメディケイドを支給する(それまでは母子家庭のみ)こととした。

しかし、オバマケアは米国の医療保障制度を大きく変えるものではなかった。第1に、オバマケアには補助金支給制限条項があり、無保険者は減ってもなくならない。第2に、オバマケアは高い免責額や窓口自己負担額のせいで、民間保険に加入していても十分な医療サービスを受けられない低保険者問題に対処することができない。米国では5人に1人が、高額なせいで処方箋薬が買えず、4人に1人が高額な自己負担のせいで受診抑制している。オバマケアは民間保険加入を促したが、民間保険では高い免責額や窓口自己負担額を設けた保険プランが減っていない。

民間保険に依存する米国の医療保障制度には多くの問題点がある。

第1に、米国の雇用主と従業員は高額の保険料を納めているが、民間医療保険は保険会社の巨額の利潤(トップ5社の利潤は210億ドル)とも相まって膨大なコストを生んでいる。第2に、メディケアとメディケイドの受給者は「福祉依存」のレッテルを貼られる。第3に、民間保険に依存したオバマケアは無保険者や低保険者に対応ができていない。

こうした諸問題をすべて解決できるのが、すべての居住者が加入する単一公的医療保険制度MfAである。また、MfAには免責額も窓口自己負担も存在せず、企業や個人に追加的な保険料負担を強いるわけでもない。MfAは米国の医療制度に「革命」的な変化をもたらす。一方、その制度設計は単純で、現在保険会社や雇用者、政府などが支払っている仕組みを単一事業体、連邦政府のみが支払う仕組みに変えるのだが、財政面における持続可能性を備えている。

MfAの構想は公的保険が機能不全に陥ろうとしている日本の医療保険制度の民主的変革の方向性を考えるうえでも大いに参考になる。

いわくら病院 梅田

主に以下を参考にした。

https://www.healthline.com/health/what-medicare-for-all-would-look-like-in-america

http://www.mdsweb.jp/doc/1582/1582_03n.html