アメリカ小児科学会警告 学校閉鎖はこどもの精神的および肉体的危害につながる 学校の再開での考察-2(NEWS No.539 p05)

米国では7月3日現在、コロナによる全米の死者は12万9000人以上、感染者は270万人を超えています。その米国で、春から閉鎖されている学校や保育所を秋から再開する動きが高まっており、今大きな話題となっています。そこには、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に関する小児や学校での感染リスク、学校閉鎖による社会的経済的な問題が大きく取り上げられ、米国社会も動いています。本邦においては、政府は2月28日より小中高の一斉休校を要請し全国的に実施されましたが、感染拡大防止効果に関して議論すらないというお粗末な状況でした。学校の再開、新型コロナ感染症の第2波到来時の再度の学校閉鎖の是非など、日本の今の問題でもあり考えてみました。

6月25日付で米国小児科学会(the American Academy of Pediatrics:AAP)は、COVID-19計画に関する考慮事項 学校再入学のガイダンス1)を発表し、子どもたちを秋に学校に行かせないことが、子どもたちに一定の社会的孤立をもたらし精神的および肉体的危害につながる可能性があると警告を発しました

このガイダンスの中で、教育、公衆衛生、地域の指導者、および小児科医が学校と協力して、子供、青年、スタッフ、コミュニティの全体的な健康を助長し、利用可能な証拠に基づいた再入学のポリシーを作成することを支援するとしています。学校は子どもと青年期の発達と幸福の基礎であり、子供たちと青年期に、教育的指導、社会的および感情的スキル、安全性、信頼できる栄養、身体的/言語的および精神的健康療法、身体活動の機会などを提供します。学校は、子どもや青年の教育開発を支援するだけでなく、人種的および社会的不平等に取り組む上で重要な役割を果たしています。そのため、SARS-CoV-2および関連する学校の閉鎖がさまざまな人種、民族、および脆弱な集団に及ぼした異なる影響を反映することが重要です。これらの推奨事項は、SARS-CoV-2パンデミックに対する私たちの理解が急速に変化していることを認めて提供されています。

米国小児科学会は、来学年度のすべてのポリシーの考慮事項は、生徒を実際に学校に通わせるという目標から始めることを強く推奨しています。2020年の春に学校が閉鎖されたために子供たちに悪影響が及ぶことの証拠はすでに存在します。

科学的見地として以下の様に述べています。

SARS-CoV-2は、インフルエンザなど、学校の閉鎖に関する現在のガイダンスの多くが基づいている他の一般的な呼吸器ウイルスとは、子どもと青年で異なる動作をするようです。 子どもと青年がインフルエンザの大発生の拡大に主要な役割を果たしていますが、これまでのところ、これはSARS-CoV-2の場合とは異なります。 多くの疑問が残っていますが、証拠が圧倒的に多いため、子どもや青年は症候性である可能性が低く、SARS-CoV-2感染に起因する重篤な疾患になる可能性が低いことが示されています。 さらに、子どもたちは感染したり、感染を拡大したりする可能性が低くなります。 学校内でのCOVID-19の蔓延を緩和するための方針は、子どもを家に留めておくことにより、子供、青年、家族、地域社会への既知の害とバランスをとらなければなりません。

政策立案者は、COVID-19ポリシーはリスクを取去る(eliminate)することではなく軽減(mitigate)することを目的としていることを認めるべきです。 単一のアクションまたはアクションのセットがSARS-CoV-2感染のリスクを完全に取去ることはありませんが、いくつかの調整された介入の実装はそのリスクを大幅に減らすことができます。 たとえば、物理的な距離を保つことができない場合、学生(2歳以上)とスタッフは(可能な場合)顔の覆いを着用できます。

感染防止に向けた考慮すべきいくつかの一般原則を幼稚園前、小学校、中学校、障害を持つ者の教育、通学通園バス、廊下、遊び場、食事・カフェテリア、清掃と消毒、検査(ウイルス学的検査、抗体検査)、体温スクリ-ニング、症状スクリ-ニング、フェイスカバ-と個人感染防御策、障害を持つ学生援助、子どもと青年のための行動の健康/感情的なサポートなどを掲載しています。また、米国の1180万人の子どもと青少年(7人に1人)が、食糧不足の世帯に住んでいました。 コロナウイルスのパンデミックにより、アメリカの家族の失業率と貧困が増加し、それが今度は食料不安を経験する家族の数をさらに増加させる可能性があり、配慮と支援の必要性を訴えています。

これらの背景ですが、米国では全国の労働力の3分の1近くに子どもがいて、パンデミックをきっかけに労働者の失職、低賃金、貧困化が進んでいます。また、学校や保育所の閉鎖が急速に育児危機を生んでいます2)。米国のノースイースタン大学による働く親の調査によると、米国の親の13%が、育児不足のために仕事をやめるか、労働時間を短縮する必要がありました。彼らは子供たちのニーズに対応しなければならなかったので、1週間に8時間の労働、1日に相当しました。シカゴ大学による分析によると、約1750万人の労働者(米国の労働力の11%)が自分で幼い子供を世話しており、学校やデイケアが完全に再開するまでフルタイムで仕事に戻ることはないということでした。そして、このことが、経済の回復を妨げ、女性に不釣り合いに危害を加え、今後数年間は深い傷跡を残すと深刻にとらえられています。子どもたちをデイケアや学校に戻すことが経済を正常に戻すために重要と考えられています。

以上の米国の現状から学べることは、第一に、新型コロナ感染症のこどもの感染性を踏まえるなら、米国の様な感染が収まりきっていない状況でも、学校再開は感染拡大につながる可能性は低いと判断されていること。第二に、学校閉鎖には社会経済的に非常に大きなマイナス面があり、とりわけ社会経済的弱者に大きな打撃を与えるものであり、そのような政策の実施に当たってはこれらのマイナス側面への十分な議論や配慮が必要な問題であること、です。

今後予想される新型コロナ感染症の第2波到来時に、不必要な学校休校を実施させない取り組みの後押しにつながるデ-タと考えます。

参考資料:

1)COVID-19 Planning Considerations: Guidance for School Re-entry

Critical Updates on COVID-19  /  Clinical Guidance  /  COVID-19 Planning Considerations: Guidance for School Re-entry

COVID-19計画に関する考慮事項 学校再入学のガイダンス

https://services.aap.org/en/pages/2019-novel-coronavirus-covid-19-infections/clinical-guidance/covid-19-planning-considerations-return-to-in-person-education-in-schools/

2)The big factor holding back the U.S. economic recovery: Child care

The Washington Post 2020704-米国の景気回復を阻む大きな要因  子育て

https://www.washingtonpost.com/business/2020/07/03/big-factor-holding-back-us-economic-recovery-child-care/?utm_campaign=wp_post_most&utm_medium=email&utm_source=newsletter&wpisrc=nl_most

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