「福島原発事故後の日本における都道府県レベルでの低出生体重とCs-137沈着との時空間的関連:分析生態学的疫学研究」(Hagen Scherb1、林敬次)の解説、その2(7月号の続き)(NEWS No.540 p05)

LBW比率の推移、2012年での急増

その結果が、下図で、縦軸はLBWの比率、横軸は年度です。Aは日本全体のLBWの推移、Bは被曝が少ない37道府県、Cは中等度汚染の5都県、Dは高度汚染の5県のLBWの推移です。
1995年からの実線は、実際のLBWの比率(○)を統計処理してもので、年々増加し、2007年前後をピークに減少して2011年まで続きます。その後のカーブを推定したのが細い点線です。実際のLBWの比率は2012年には急にジャンプし、細い点線より高いまま、2018年まで続きます。そのジャンプの大きさは、汚染度の高いほど大きくなっています。

全国ではOR=1.020(95%CI;1.003) ;p=0.0246、37の汚染度の少ない地域ではOR= 1.015(0.997,1.034);p=0.1045、汚染度の比較的強い山形、埼玉、東京、神奈川、千葉ではOR=1.021(1.005,1.037);p=0.0113、汚染度が強かった福島、宮城、茨城、栃木、岩手では、OR=1.055(1.01,1.10);p=0.0100でした。
一見しますと、2011年までの変化が大きすぎて、2012年のジャンプは小さく見えますが、それまでの主に妊婦の体重制限による影響とは違い、2012年のジャンプは放射線の胎児への遺伝的障害も反映していることです。これは、日本で周産期死亡の増加、停留精巣の増加、重症心疾患の増加などが報告されていることにより強く示唆されます。

地震・津波の影響

最後に、地震と津波の直接的な影響の検討です。下図A,Bの実線は2004年から2018年までのLBW率の推移です。A図は地震・津波の直接的な影響が少なかった東京・栃木・山形でOR=1.033(95%CI;1.014,1.053)、B図の福島・岩手・宮城のそれは、OR=1.043 (1.024,1.063)で、両者は殆ど同じです。LBWの増可には、地震・津波の直接的な影響がほとんどなかったと考えられます。

まとめ

この研究は、Cs-137の沈着に関連する低出生体重の増加と、2012年以降の日本における対応する追加の線量率の増加を示しています。高められた環境電離放射線被ばく下での妊娠期間の進展と妊娠の転帰を示唆する以前の証拠が裏付けられています。」(Abstractより)
この論文は、原発事故の健康障害が隠せないことを示す力になると信じています。

はやし小児科 林 敬次