福島甲状腺がんについてのメディシン論文がランセットに紹介(NEWS No.547 p05)

2021年3月のランセット誌のWorld Report欄に医問研ニュースの1月号で紹介した福島の放射線被ばく甲状腺がんについての私たちの手になる2019年のメディシン論文が紹介されました。

ランセット誌は世界的に最も有名な医学雑誌の一つです。週一回発行され、論文と討論、論説、とともにWorld Report欄で構成されています。

今回、私たちを紹介するレポートを書いたJustin McCuryという方は、これまでも東北大震災、福島原発事故について、10年間で何本かのレポートを書いています。

今回のレポートは「2011年東北大震災、10年後」というテーマで2ページの記事が載っています。

記事を概略します。「「被災地の生活は戻ったが津波被災者や原発被災者の健康影響の把握には何年もかかるだろう。核メルトダウンで16万人が原発周囲から逃げるように命令され当初は短期避難と信じられたが何年も続いている。福島医大の坪倉正治氏は「健康に影響した最大の危険因子は避難だった」と述べた。政府は汚染表土の除染に2,9兆円かけ、2015年避難命令の解除を開始したが、現在でも放射線レベルが年間20mSvを超える地域があり立ち入り禁止のままである。これはICRPが許容する最大被ばくだ。国は福島の住民の許容レベルを上げ、1mSvは長期目標のままと主張している。

2011年から5年間で、事故当時18歳以下の甲状腺がんは187例、2016年4月から18年3月最新ラウンドでは217000名中15例が確認された。

IAEA、UNは2015年、子どもたちがどれだけの放射線にさらされたかは不明だが福島の子どもたちの甲状腺がんの増加はありそうにないと述べた。またロンドンインペリアルカレッジのジェリートーマスは「福島後の甲状腺放射線量は、チェルノブイリ後の約100分の1」「子どもたちに甲状腺がんの増加がみられる可能性は非常に低い」と述べた。

しかし、グリーンピースドイツの上級専門家ジョーンバーニー、環境放射線の専門家イアンフェアリーは、危機の初期からの包括的暴露データの欠如を指摘しIAEAの結論に異議を唱えている。バーニーとフェアリーはYamamotoらの2019年の論文から「福島原発事故による放射能汚染は、小児および青年の甲状腺がん検出率と正の相関があります。 これは、原発事故とその後の甲状腺がんの発生との因果関係の証拠を提供する以前の研究を裏付けています」と引用し、バーニーはまた「現在の甲状腺率がどの程度放射線被曝によるものであるかは証明されていません。しかし、線量データを含む不確実性を考えると、ヨウ素曝露と甲状腺がんの発生率が高いこととの関連を却下することは信頼できません。 当局は、避難や避難から生じる他の身体的および精神的健康問題のスクリーニングと優先順位付けを継続し、帰省した人々をみまもる必要があります。」と引用している。

最後に東京目白大学の重村敦教授の福島の自殺率の高さと差別に言及し」」McCury氏のレポートは終わっています。

筆者McCury氏の意図は明らかと思われます。今なお解決に程遠い福島の現実を世界の医療者に向け発信したことだと考えています。また我田引水かもしれませんが、福島の放射線量は低かったという国際的デマの中で、私たちの論文を紹介したことも含めて、多発している福島の小児甲状腺がんは放射線被ばくに起因するということついて世界に知らせることだと思われました。

一方で、2ページという、ランセット誌の中では原著論文を除けば大きく誌面を割いているWorld Report欄でのこのような文章の掲載を許可し、文頭にクリックすれば我々の原著論文だけにたどり着けるよう采配したランセット誌編集部にも敬意を表したいと思います。

この欄を紹介することも運動に力を与えるものと考えています。

大手前整肢学園 山本