いちどくを この本『国際社会から見た福島第一原発事故─国際人権法・国連勧告をめぐって 私たちにできること』(NEWS No.552 p06)

『国際社会から見た福島第一原発事故─国際人権法・国連勧告をめぐって私たちにできること』
原発賠償京都訴訟原告団 編
耕文社 700円+税
2021年5月発行
2012年6月「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律案」が衆議院本会議で可決され「子ども・被災者生活支援法」として同27日から施行されています。

日本の原発は安全、事故は起きないとして、「原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っている」国は、原子炉3基のメルトダウンというレベル7(国際原子力事象評価尺度・最高位)の原発事故により放射性物質の「持続的な放出」(首相官邸ホームページ)に直面しました。生じた事態の責任主体を問わない「被災」という言葉が使われていますが、「被災者生活支援」の予算的措置を講ずるための関連法令を次々と発すべき「責務」を負った筈でした。

しかし国の施策は「支援法の基本理念」は何処へ行ったのかと、「責務」のサボタージュを思わせるものでした。生活基盤である住宅支援に関しても、「期限2年、以後は1年毎の更新」とする「災害救助法」に基づいた施策で、それも2017年3月には打ち切ったのです。

放射性物質の環境への拡散をもたらす原子力災害の実態を無視する一方、「原子力緊急事態宣言」は継続したままオリンピックを開催したのです。

「2021 ZENKO・反原発分科会」に参加された福島原発かながわ訴訟原告団長・村田 弘(ひろむ)氏は「全国で展開されている損害賠償請求の集団訴訟は37、原告は総計1万3000人を超え、わが国の裁判史上、類を見ない規模」と報告されています。

原発事故はなかったことにするべく、「子ども・被災者生活支援法」を骨抜きにして、低線量・内部被曝の危険性を無視する「放射能安全神話」を振りまく国・東電に対し、どの様に戦ったら良いのでしょうか?

反原発分科会」には、避難者住宅追い出し訴訟(注1) で避難者の権利擁護に尽力されている柳原敏夫弁護士の参加がありました。原発事故被害者の権利を守る法的枠組みが構築されていない現状での「国際人権法」(注2)の果たす役割を報告されています。

(注1)東京都内の国家公務員宿舎に住む区域外避難者を退去させるために、避難者を被告とする福島県の提訴による裁判。

(注2)世界人権宣言(1948年採択)に基づく国連人権委員会作成による国際的な人権規約で、1976年制定の国際法。詳しくは本書をお読み下さい。

医問研ニュース読者の皆様には本年3月号で、原発賠償京都訴訟原告団共同代表の福島敦子氏による「原発事故発災から10年。思いはせること」と題した寄稿を読んで頂きました。

今回紹介の冊子は京都訴訟原告団「冊子プロジェクトチーム」による編集で福島氏も参加メンバーです。編集責任者のM・SONODA氏は「避難者の母親の一人として」、2017年国連人権理事会で「福島原発事故による女性と子どもの人権侵害について」意見陳述をしました。

’12年には、元双葉町町長の井戸川克隆氏が「避難の有無に関わらず住民達の置かれた真の状況、特に子ども達の健康状態」を報告、’18年には、避難者による「国内避難民としての訴え」がなされています。

このような報告と人権を守るための様々な働きかけに基づいて国連人権理事会は日本政府に対し「福島原発事故被害者の人権問題に関する勧告」を出しています。また個別の国連加盟国からも勧告が出されています。そして今「国内避難民の人権に関する国連特別報告者」の訪日調査要請が’18年より複数回出ていますが日本政府は受け入れていません。

世界の国々は福島原発事故での人権状況をどの様に見ているか?、それらの勧告に対して日本政府はどの様に対応しているか?を自分自身の人権を守るためにも、この冊子を通じて学べると思います。

ここで思い出すのは、同じ国連でも「国連科学委員会」のこと。同委員会は今年3月に福島原発事故に関する「2020年報告」を発表しました。その中で甲状腺がんを始めとする「事故後の健康被害」についてドイツのH.Scherb氏と医問研メンバーが世界に発表した論文を否定しています。(医問研ニュース3月号・4月号を参照下さい)

「避難の権利」の根拠となる「低線量・内部被ばく」による健康障害の実態を否定しているのです。「(えせ)科学」を人権擁護・推進の側に立つ「科学」にするために、人々の力の必要性を痛感します。

(小児科学会員 伊集院)