例会報告② 抗体依存性感染増強(ADE)を引き起こす感染増強抗体について(NEWS No.553 p03)

現在世界的に見てもデルタ株が猛威を振るっており、本来は一般的には感染拡大が落ち着くはずの夏にも感染拡大が止まらない状態になっていた国がたくさんあります。特に、世界に先駆けて昨年12月からワクチン接種を開始したイスラエルでは、3月半ばにはすでに国民の半分以上がワクチン接種を完了し、それ以降4月にデルタ株の感染が初めて確認されてからもある程度感染が落ち着いていました。
しかし、8月以降再び急激に感染者数が増加し、しかもその感染者のほとんどが新たな変異種であるデルタ株であり、ワクチン2回接種完了者でも感染症症状が引き起こされる、いわゆる「ブレイクスルー感染」が起こっていることが問題視されていました。
また、例会でもご紹介したように、8月半ばにはイスラエルでの新規感染者で入院する者の大半がワクチン接種完了者となっていることが報道されていました。7月からイスラエル国内で3回目のブースターショットが開始され、8月以降急激にブースター接種者数が増加してもその傾向は変わらず、むしろイスラエル国内の新型コロナ死者数の再増加とこのブースター接種者数が見事に相関しているように見えるということは、例会でも述べた通りです。
さらに、ここでは詳細なデータは示すことはできませんが、イスラエルのみならず米国で(ファイザー製)ワクチン接種が進んでいる一部の州でも、同様の傾向が認められています。
すなわち、ワクチン接種が進むとともに一旦感染が落ち着くものの、住民の大半がワクチン接種を済ませた時期からみておおよそ4ヶ月後くらいから、急激に感染者数が再度増加する傾向があったのです。

これらのことから私が言いたいことは、新型コロナワクチン接種によって、一時的には全体的な感染抑制や重症化を防ぐ効果が認められたとしても、その後デルタ株のような新たな変異株が流行してきた場合には、むしろその感染を急激に拡大させてしまう可能性がある、ということです。

実際に、そのことを示唆する論文がいくつか報告されています。その中でも今回の例会で取り上げさせていただいた論文が、「感染増強抗体」の存在について示したpreprint論文です(Arase et al. 2021, The SARS-CoV-2 Delta variant is poised to acquire complete resistance to wild-type spike vaccines.)。この論文によれば、

1.これまでの株による自然感染や、野生型スパイクタンパク質のmRNAワクチン接種により体内で産生される抗体の中には、新型コロナウイルスの増殖を抑制する中和抗体とは別に、スパイクタンパクの特定の部位に結合し、ウイルスの感染を助長する「感染増強抗体」が存在する。

2.十分量の中和抗体の存在下では感染増強抗体に影響されないが、中和抗体の量が減って濃度が低くなると、感染増強抗体による感染増強作用が出現してくる。

3.実際に、重症患者では感染増強抗体の産生量が高い傾向があり、感染増強抗体の産生が重症化に関与している可能性がある。

4.今後中和抗体の認識部位(エピトープ)に変異が生じてくると、感染増強抗体による増悪効果がより強くなってしまう可能性がある。

5.感染増強抗体を検査することで、重症化しやすい人を調べることが可能になると期待される。

6.感染増強抗体の産生を誘導しないワクチン抗原を開発することが望ましい。というようなことが述べられていました。

先述したような、デルタ株流行後から再度急激に感染者数が増加した国々・地域において、その入院患者の大半がワクチン接種者であるというような状況が生まれていることが、この論文で示された「感染増強抗体」なるものによるかどうかについては、更なる検証が必要です。
しかし、新潟大学名誉教授である岡田正彦先生の仰るように、mRNAワクチンという大きな「選択圧」によってウイルス変異に拍車がかかり、自然経過では起こり得ないようなスパイクタンパク部分の変異が繰り返し起こって、その結果として感染効率が良く、なおかつ組織障害性や免疫・炎症誘導性の強い(=スパイクタンパク自体の毒性??)強毒株を生みだすという可能性もあると私は考えています。
今後日本でも、デルタ株やミュー株などの変異株が主流となることが考えられ、また冬になると再び感染爆発が起こる可能性があります。その時にワクチン接種者がどのような動向を示すのか(重症化するかどうか)?そのような調査の結果が待たれます。

医療法人聖仁会松本医院 院長 松本有史