コロナワクチン副作用としての心筋炎が急増(NEWS No.554 p04)

2021年10月8日、フィンランドは「まれ」な副作用といわれてきた心筋炎のため、30歳未満に対するモデルナ製コロナワクチンの接種を中断する決定をした。スウェーデンの30歳未満の男子、デンマークの18歳未満へのワクチン中止に引き続く決定である。日本の厚労省も10代、20代の男性にはモデルナでなく、ファイザーワクチンの接種を推奨し始めた。

ファイザーであれ、モデルナであれ、新型コロナワクチンは心筋炎を起こすことが周知の事実であることへのゆがんだ反映である。今後12-15歳への接種拡大、3回目の接種などを進めるワクチン対策のウイークポイントの一つである心筋炎について論じてみる。

1.心筋炎とは

まずあまりなじみのない(急性)心筋炎について。(急性)心筋炎は原因不明で胸痛や動悸を症状に発症し、ひどいと心不全をおこしたり、不整脈から突然死もありうる。心電図異常、血液検査、心エコーなどで診断を疑う。確定診断は心筋生検だったが、最近はMRIでもよいとなってきている。一過性の心電図異常などで治まることも多いが、心機能低下が慢性化し、心移植以外に治す見込みがなくなったり、急な不整脈で亡くなることもある。思春期から青年期に多く、幼少期でも見られる。頻度は10万―100万に何人かのオーダーといわれるが不正確である。

2.コロナワクチンと心筋炎について

ワクチンによる心筋炎については生ワクチンである水ぼうそうワクチンとの関連について論じられたことはあるが、他は散発的症例報告があるに過ぎない。

コロナワクチンと心筋炎については、アメリカCDCの予防接種諮問委員会(ACIP)では、COVID-19 Vaccine Safety Technical (VaST) Work Groupから5月17日、少数ではあるがコロナワクチンによる心筋炎の発症例についての報告がなされ、思春期や青年男子に多く、1回目接種より2回目接種に多いこと、接種1週間以内の発症が多いことと、多くの症状は一過性で、検査異状もすぐ改善、入院は短期間であること、長期の追跡データは乏しいことなどが示された。その後5月24日、6月23日のACIP会議へのVaST報告がなされ、WebsiteやMMWRなどでコロナワクチンと心筋炎の関係が全世界に広がった。

COVID-19 Vaccine Safety Technical (VaST) Work Group (cdc.gov)

(表1)に2021年6月11日までに2回接種1億3300万接種に対し636例の心筋炎があったとするACIP報告の抜粋を示す。

(表1)

12-17歳男子では100万接種に対し心筋炎が636名に発生するという結果である。この636名はアメリカの受動的副作用報告システムVAERSのデータをまとめたものであり、受動報告であり報告にかなりの制限があること等を考えると実数がはるかに多いか、636名に対応する分母がはるかに小さいと推察される。本来、このような重篤な副作用報告は、phase3を経て一般認可前に知らせる必要があるが、早急に流布されたワクチンのため、頻度は少なくても重篤な副作用が見逃された格好の例であろう。

3. ワクチン推奨側の言い分

コロナワクチンによる心筋炎はコロナ流行前の一般人口での心筋炎発症頻度と変わらないという主張、あるいはワクチンによる副作用と認めても、SARS-COV-2に罹患しても心筋炎の合併例がみられ、その頻度はワクチンでの発症率よりも高いという説が流布されるようになった。

Daniels Cらはアメリカ内科学会雑誌(JAMA)に、コロナ罹患後のアスリートの1.8%に心筋炎が合併したと報告している。コロナ罹患のないアスリートとの比較もない論文で、心筋炎頻度が異様に高い報告である doi:10.1001/jamacardio.2021.2828

MMWR 8月6日号によると(MMWR Weekly / Vol. 70 / No. 31)、2019年に比べ2020年の心筋炎は42%増加、2020年3月に比べ2021年1月ではCOVID-19入院罹患者の心筋炎リスクは非罹患者に比べ約16倍であった。ただし、これは心筋炎とCOVID-19 入院患者の因果関係を推定しているのではなく、コロナ罹患による心筋炎発症リスクは16歳以下、75歳以上が大きく16-39歳が最も低くなっているし、女性の方が優位に高いというように、一般の心筋炎頻度とは異なる分布を示している。

2021年10月、NEJMにイスラエルから3つの論文が発表された。イスラエル最大の保険組合からの論文が2編、保健省からの論文が1編である。保険組合からの論文は先のMMWRにも引用されている。ここでは保健省からの論文に言及する。

Mevorachらは2021年1月から5月まで心筋炎で入院した286例の心筋炎患者について、コロナ罹患者185例とコロナ非罹患者101名にわけ、それぞれワクチン接種によって心筋炎罹患がどれくらい異なるかを比較した。接種三日後にピークが来ることも、また20-29歳をピークにするという、通常の心筋炎罹患の特徴を示した。つまり、ワクチン接種によって心筋炎の発症疫学パターンは変わらなかった。

DOI: 10.1056/NEJMoa2109730

さらに2回接種後30日までの接種者と非接種者の罹患率を比較した結果を見ると、(表2)に示すように、明らかに接種群での罹患が多く、やはり16-19歳男子が最大でRRは8.96であった。これはワクチンによる心筋炎に影響を与える疾患の予防より、ワクチンに伴う心筋炎が増加していることを示すと推定される。

以上のイスラエル保健省からの結果は、CDCと異なり、ワクチン接種は、コロナ罹患効果による減少より接種に伴い心筋炎を増加させていることがわかる。

こういったデータを背景に10月、スウェーデン、デンマーク、フィンランドは30歳未満へのモデルナワクチンの接種の中止を決めた。欧州医薬品庁(EMA)での分析が始まっているという(ロイター通信)。

(表2)

4.日本の対応と提言

冒頭に述べたように、日本でもこういった世界の動きを無視するわけにもいかず、厚労省は10月15日第70回厚生科学審議会予防接種・コロナ部会で10代、20代の男性にはモデルナをやめ、ファイザーワクチンを推奨するという筋違いの変わり身を見せている(ファイザーは大丈夫という根拠はない)。一方、同審議会では心筋炎症例は医療機関からの報告として173例(9月10日の第68回では86例)、製造業者からの報告として192例が上がっている。心筋炎はアナフィラキシーとは異なり明確な治療がないし重症化の予測も難しい。青少年を中心に、一過性のものが多い一方、長期入院を要したり、心不全を合併したり、場合によって激烈型で死亡する例もある。世界ではこのことを念頭に置いて、正確な疫学データを追及し、ワクチンとの関係を明らかにしようとする方向もみられるが、日本では「軽快、回復、未回復ないし調査中」と分類し、「ワクチンとの関係は判定できない」ないし「軽快」が多いから大過なしと主観的なその場限りの判断をしているだけである。心筋炎は稚拙で早急な認可に伴って生じた重篤な副作用の一端であることが明らかとなっており、小児への接種拡大による心筋炎増加が懸念される。すでに12歳の心筋炎報告が複数認められ、17歳の後遺症あり症例も報告されている。ワクチン接種の低年齢層への拡大、また、特に30歳未満への3回目の接種は中止すべき時である。

山本