いちどくを この本『子宮頸がんワクチン問題 社会・法・科学』(NEWS No.556 p07)

『子宮頸がんワクチン問題 社会・法・科学』
メアリー・ホーランド、キム・M・ローゼンバーグ、アイリーン・イオリオ 著
別府宏圀 監訳
みすず書房 5,000円+税
2021年9月刊行

前号のニュース8面「危険・効果不明のHPV(子宮頸がん)ワクチン」の中で林敬次氏より紹介のあった書物です。

著者のホーランド氏は法学博士、ローゼンバーグ氏は法学博士で弁護士、イオリオ氏は「健康・医療問題のライター.銀行と金融論を学ぶ.ワクチンで障害を負った子の母」との記載です。

「私たちは医師や科学者ではないが、私たちの視野がこの議論にとって重要であると信じている。あまりにも長い間、産業界と関係官庁の中で現実に、また潜在的に利益相反を持つ人々が、ワクチンの安全性についての世論を支配してきた。」……この主張を裏付ける調査・研究の成果を私たちに教えてくれています。

その活動は、世界的に大きな影響力を持つFDA(米国食品医薬品局)・CDC(米国疾病管理予防センター)・EMA(欧州医薬品庁)・WHO(世界保健機関)などがHPVワクチンにお墨付きを与えている現状では困難な作業だったのでは?と推察しますが、「注記」の膨大さが示すように、多方面の領域かつ深く踏み込んだ情報提供があります。

日本では同時期に「あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか」との小題を付けた「10万個の子宮」(村中璃子著/平凡社)の発行がありました。調査範囲の違いと共に、本書にある「ワクチンは健康な人に投与されるので、『最高水準の安全性』が(当然)期待されている」とのワクチンに対する基本的考え方と、ひとりひとりの存在に対する価値観の違いを感じさせられました。

監訳の別府氏は神経内科医として勤務しつつ1986年日本で初めて製薬企業や行政からの援助を受けない「独立医薬品情報誌『正しい治療と薬の情報(TIP)』を創刊.以来2014年まで同誌編集長」の任に就かれていました。

原著「The HPV Vaccine on Trial (裁判にかけられたHPVワクチン)」は2018年発行ですが、別府氏を中心とした「翻訳ボランティア・チーム」により本年8月上梓されました。(翻訳チームには医問研「臨床薬理論文を批判的に読む」を担当されている寺岡章雄氏も参加されています。)

日本語版には、「日本のHPVワクチンに焦点を当てた章」の更新と、読者の理解を助けるために専門的な用語を解説する「基本用語」の欄を設けられています。巻末には別府氏による「翻訳を終えて—―新たな薬害の発生防止に役立つように」が掲載されています。本書のまとめ、目指すところが述べられており、読後感が整理されます。

「子宮頸がん予防ワクチン」とも呼ばれているヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは、2006年FDA承認、’07年4月オーストラリアの学校で世界最初の接種開始を得ましたが直後より副作用報告をメディアが取り上げていました。日本政府による認可はGSK(グラクソ・スミスクライン社)の「サーバリックス」が2009年10月、MSD(メルク社)の「ガーダシル」が’11年7月でした。新型インフルエンザワクチン問題が生じた頃です。

認可後、子宮頸がん啓発キャンペーンとともに任意接種が始まりましたが、’13年3月「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」の発足があり、同4月には前出のTIPが「HPVワクチンの効果と害 (打出喜義氏ほか)」「子宮頸がんの疫学とHPVワクチン (浜六郎氏ほか)」を掲載し警鐘を鳴らしていました。そのような状況で同月、政府は、小学6年から高校1年の女子を対象に予防接種法に基づく定期接種を開始。直後よりの「副反応」報告に対し、厚労省は「ワクチンとの因果関係を否定できない」として開始2か月後の6月「積極的勧奨」を中断し8年経ちました。最近、コロナワクチンについて厚労省の予防接種・ワクチン分科会副反応部会を検索中第69回(10月1日)の第一議題がHPVワクチンであることに気づいたところ、早くも厚労省は11月26日に「積極的な勧奨差し控え」を終了し、’22年4月より「接種の呼びかけ」再開としました。コロナ禍でワクチン受容感が高まったと判断したのかな?と穿った見方をしてしまいます。厚労省が「安全性、有効性に関する最新のエビデンス」として挙げたスウェーデンの報告はニュース前号で林氏が批判しています。

本書は第Ⅰ部:不正のあった臨床試験とワクチン開発競争について検討、第Ⅱ部:販路を拡大する「マーケティングの魔法」と「病気のブランド化」、第Ⅲ部:免疫反応を強める「アジュバント」などについての最新の研究について、第Ⅳ部:日本ほか四ヶ国でのHPVワクチンをめぐる政府、メディア、法律の役割などを詳述しており、この時期に大切な書物です。

伊集院