乳児期からの保湿剤使用がアトピー性皮膚炎を予防するか?(NEWS No.557 p08)

最近、乳児の皮膚の相談で診察に来られたり、健診で皮膚の相談をされたりするほとんどのお子さんが「アトピー性皮膚炎の予防のため」と、出生からずっと「保湿剤」を塗るよう指導されているようです。これについて少し詳しく調べてみました。

<日本での「国立成育医療センター」Horimukai KらのRCT論文1)が引き金?>

2014年、成育医療センターの論文では彼らの論文が初めて?のRCTとしています。日本小児科学会で強い影響力を持つ同センターの論文が最近の保湿剤ブームを助長した可能性が大です。この論文は、両親や同胞にアトピー性皮膚炎(以後、Atopic Dermatitis=AD)の患者が居る、アトピー性皮膚炎のハイリスクな子どもたちでは、生後すぐから保湿剤を続けると、32週までに32%のADを減らすとされています。試験群と対照群共に59人の研究です。この論文の問題点は、1)試験薬とプラセボ両群に約2割の脱落があります。しかも、主要評価項目結果の評価がカプランマイヤープロットで提示されて、先の2割の脱落の数字がその図に提示されていないため客観的な評価が困難です。2)使われた保湿剤は資生堂の大人にも使う化粧水として販売されている「ドゥーエ乳液」であり、筆頭著者やcorrespondence authorに資生堂との利益相反があり、論文の客観性に疑問が生じます。3)この評価は生後32週までのものですから、将来のADの予防をしたとは言えません。したがって、この論文からは、生後すぐからの保湿剤の使用を正当化することはできません。

<最も最近にでた英国からのRCT2)は乳児への保湿剤使用は有害無効の結論>

このRCTは試験群693人、対照群701人の多人数かつ長期的なものです。両群共に英国の標準的「スキンケア」をして、イギリスでポピュラーな保湿剤を使った群と使わなかった群を比較しています。1歳までその介入を続け、1歳時点と3歳時点で皮膚状態を比較したものでした。結果は、ADまたは湿疹の程度は両群で変わりがなく、皮膚の感染は治療群の方が1.55(95%信頼区間1.15-2.09)多かったので、保湿剤使用はすべきでないとの結論です。著者たちの利益相反は多数の製薬会社との間であることが記載されていますが、この結論との直接的な関連はわかりません。二つの論文はまるきり反対の結論で、その後多数のRCT論文が出ているので、総合的評価は困難です。

20211月のコクラン・システマティックレビュー3)

33試験を検討し、17試験を採用したメタ分析では、3-12か月でのスキンケアは、1歳から3歳までの湿疹を予防せず(RR=1.03、95%CI0.81,1.31)、感染を増やすRR=2.53、95%CI0.99,6.47)との結論でした。コクランレビューはその厳密性では最高級ですので、これで結論ははっきりしたと思ったのですが、これでは議論が止まらないようです。

ZhongY4)があげる、コクランレビューへの反論レビュー>

著者らは、コクランレビューの問題点をあげ、生後6週よりのごく早期からの保湿剤を使用した10試験結果のみを採用したメタ分析で、1)全体的には保湿剤の使用はADを少なくしない。2)しかし、8試験で高リスクグループの場合は減らす?(RR=0.75 95%CI0.62-1.11)。3)保湿剤をADの評価時点までぬり続けている6試験では良く効いた(RR0.59、95%CI0.43-、0.81)というものです。効果のある試験を選んでなんらかの「効果あり」を狙ったレビューという疑いもあります。

また、食物アレルギーの予防はこれらのレビューで効果は証明されていません。

これらの研究結果からは、

1)リスクの高くない乳児への保湿剤は効果なく、感染のリスクが高まる。2)高リスク乳児への使用は、評価をする時点に保湿剤を使っていると有意に効果がある、と言えそうです。

<結論>

全てのお子さんに生後すぐより保湿剤を使用するのは、保湿剤製造販売企業の利益増になるが、むしろ不要有害。ハイリスクのお子さんには塗り続けると効果があるかもしれないが、症状が出た時点から始めても同様の可能性あるかも知れません。しかし、その点は検討できませんでした。

はやし小児科 林

1)Horimukai K et al.J allergy Clin Immunol 2014,2014; 134: 824-30.e6.

2)Chalmers JR et al. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(19)32984-8

3)Kelleher MM et al. Clin Exp Allergy.2021;51:402-418

4)Zhong Y et al. Allergy. 2021;00:1-15