いちどくを この本『ルポ 入管―絶望の外国人収容施設』(NEWS No.562 p07)

『ルポ 入管 ――絶望の外国人収容施設』
平野雄吾 著
ちくま新書 940円+税
2020年10月刊行

本書は、医問研ニュース読者から紹介して頂きました。6月20日は「世界難民の日」でした。今年の春頃「紛争や暴力で住む場所を追われた難民や国内避難民などは世界全体で1億人を超えた(国連難民高等弁務官事務所)」との報道がありました。また「6月は不法滞在・不法就労防止月間です。兵庫県警」のテロップが伊丹空港で流れていました。

共同通信記者である著者は’15年春から2年間カイロ(エジプト)で勤務、中東・北アフリカ地域でシリア内戦と「イスラム国」(IS)を取材、特に「シリアやイラクから各地に避難した難民」については独・仏・蘭での取材活動もしました。

「日本に逃れてきた難民たちはどんな暮らしをしているのだろう。帰国後、気になって仕方がなくなり」取材を始めたとあります。2002年から東日本入国管理センター(茨城県牛久市)で収容者との面会を続けていた山村淳平氏(内科医)との面識を得て’17年秋から山村氏の面会活動に同行します。収容されている人々と出会うなかで著者は「ここで何か大変なことが起きているに違いないと確信」、入管施設や非正規滞在の外国人についての取材活動を続けることになります。

「入管」とは法務省の内部部局であった入国管理局の略称ですが、同部局は「東京五輪や外国人労働者の受け入れ拡大に合わせて」’19年、法務省外局に位置する出入国在留管理庁(略称:入管庁)に「格上げ」されています。

‘21年3月名古屋入国管理局で死亡に至る処遇を受けたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリ氏(当時33歳)遺族の提訴(本年3月)を受けて、今月17日名古屋地検は「当時の入管局長ら13人を容疑なしで不起訴処分にした」と一般紙が取り上げています。「’20年までに入管施設内か送還中に死亡した人が、確認できただけで23人」との情報もあります。

2020年10月発行の本書には、サンダマリ氏に関する記述はありませんが、「2007年以降15人が死亡」と報告しています。そして、なぜ入管がこのような人権侵害の場になっているのかを本書から学ぶことができます。

戦前、外国人の出入国管理を担ったのは内務省、警察。1910年の日韓併合(植民地支配)以降、労働力として強制移動を受けた朝鮮半島出身者を取り締まったのは特高警察。

敗戦後、軍国主義の象徴とされた内務省は1947年11月に解体されますが、大日本帝国憲法下での最後の勅令となる「外国人登録令」を現行憲法施行の前日(同年5月2日)に制定、「新憲法下の入管権力への置き土産(『単一民族社会の神話を超えて』大沼保昭著)」と指摘されています。この法令により、帝国臣民として創史改名まで強要した在日朝鮮人を「外国人」として登録の対象として国籍を理由に社会保障から排除。

在留資格や在留期間による厳格な外国人管理・行政庁の自由裁量による強制退去・法相による在留特別許可・無期限の入管収容・・1951年10月に制定された「出入国管理令」は「難民の地位に関する条約」等への加入に伴い、1982年「出入国管理及び難民認定法」に名称のみ変更されましたが、政府は70余年前と同じ構造となる出入国管理行政を続けています。

本書第一章 夫、あるいは父の死 第二章 入管収容施設の実態 第三章 親子分離の実相、強制送還の恐怖 第四章 在留資格を求める闘い・・・ テレビでは「日本は民主主義の国」とよく聞くけど? 人間には生来「基本的人権」を持つと言われるけど,どうなっているの?との思いを抱きます。「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は外国人在留制度の枠内で与えられているに過ぎない」との最高裁判決(1978年)が生きているのです。

第五章 国家権力と外国人・・・「コロナ危機」を含む世界的視野での記述が続きます。

日本政府は自由権規約、難民条約、子どもの権利条約などの国際人権条約に参加しているものの、条約に基づいて権利救済を求める「個人通報制度」を受け入れていません。人権を保障するものは何かを学ぶ為にも一読ください。

伊集院真知子