2022年7月2日に発生した日本原燃㈱六ヶ所再処理工場における高レベル放射性濃縮廃液の冷却喪失事故について(NEWS No.564 p05)

2022年7月2日に発生した六ヶ所再処理工場の高レベル放射性濃縮廃液の冷却喪失事故に関しては、日本全国で報道されたにも関わらず、深刻に受け止めている人は少ないように思われる。しかし、この事故は、一歩間違えれば、六ヶ所村内や青森県内のみでなく、東日本、さらには日本全国にまで被害を与えた可能性のある「非常に深刻な事故」であることを知っていただきたいと考え、ここに報告させていただくことにした。

日本原燃の第一報によると、「7/3 午前2時26分に、高レベル廃液ガラス固化建屋において、廃液の供給液槽の安全冷却機能が一時喪失していたことを確認した…安全冷却水設備は、(AとBの)2系統あり、A系列は工事のため停止しており、運転中のB系列の仕切弁が閉止されたことにより、2系列がともに、7/2 15時31分から23時44分までの約8時間停止…23時44分に当直員が仕切弁を開け、安全冷却水の流量が復帰したことにより、安全冷却機能は回復した…原因は調査中…環境への影響はなし…」とのことであった。(https://www.jnfl.co.jp/ja/release/press/2022/detail/20220703-1.html

図1 高レベル放射性濃縮廃液の供給液槽

翌7/4、デーリー東北(青森県東部~岩手県北部の地方紙)は、「…事故を起こした廃液を貯蔵するタンクの容量は5立方メートルで、過去の試運転(アクティブ試験)で発生した約2.6立方メートルの(放射性濃縮)廃液が入っている(図1の⇒)。タンク内を通る配管を水が循環して温度を一定に保つ仕組みで…通常は24度に保つ廃液の温度が、冷却停止トラブルで一時的に32度まで上昇した。日本原燃㈱は廃液を60度以下で管理すると定めている…」と報道した。

現在、六ヶ所再処理工場には、全体で約211m3の高レベル放射性廃液が長期貯蔵されている。今回の事故は、そのうち、5m3蓄えることができる貯槽(供給液槽)のトラブルであり、冷却水の通る配管の仕切弁が閉まっていたことによって、冷却水が循環せずに32℃まで、通常よりも8度も上昇したという事故である。

再処理工場の竣工が遅れているため、「再処理する使用済核燃料は、原発サイトのプールで12年間、六ヶ所再処理工場で3年間冷却、合わせて15年間冷却したものを再処理する」と想定し直しており(図2参照)、アクティブ試験では15年間冷却した使用済核燃料を用いて再処理を行っていた。そのため、高レベル放射性濃縮廃液が沸騰に至る時間余裕は23時間であったため、8時間の冷却停止でも大事に至らなかった。もしもこれが、4年冷却の使用済燃料を再処理していた場合は、高レベル濃縮廃液の沸騰に至るまでの時間余裕は約6時間であり、冷却の復旧前に沸騰を開始し、揮発性の放射性物質が大気中に拡散していた可能性がある(図2及び3参照)。

図2 再処理する使用済核燃料の冷却年数と沸騰に至る時間
図3 高レベル放射性濃縮廃液の沸騰開始 及び 蒸発乾固に至る時間

一旦、揮発性の放射性物質が放出され始めたならば、たとえ「配管の仕切弁が閉じていることが原因である」と判明したとしても、作業員は仕切弁を手動で開くために被曝覚悟で現場に向かわなくてはならない。しかも、不溶解残渣廃液の槽だったとしたら、大惨事に至った可能性がある(図2参照)。ちなみに、故高木仁三郎氏は、「100m3貯蔵しているときに1m3漏れただけで、六ヶ所村の半数死亡、名古屋では1ケ月間で1mSvの被ばく(1年で12mSv)をする」と述べていた。

しかし、それにも関わらず7/7の東奥日報(青森県の地方紙)は、驚くべき記事を掲載した。

「規制委の見解『閉めるべき仕切弁を取り違えたことが原因ではないか』…『冷却管2系統の手動バルブは同じ部屋にあり、一見すると判別が難しい状態だ』…更田豊志委員長は、『冷却が1週間単位で停止しても危険な状態には至らないため、(今回のトラブルの)リスクは大きくない』との認識を示した…」と報道したのだ。原子力規制委員長の軽さと、それを批判もせずに報道する地元紙には呆れるばかりだ。ちなみに、この地元紙・東奥日報は、「日本で一番多くの原発・核燃広告料をもらっている新聞社」として、本間龍氏に暴露されている。(亜紀書房「原発広告」2013)

その後、7/19の日本原燃のプレスリリースによると、「高レベル廃液ガラス固化建屋において安全冷却水A系列は6月19日から工事のため計画的に停止中、安全冷却水B系列のみが運転中だった。7/2当日、別室の供給槽保守第1室において、作業員が溶接作業に係る準備作業をしていたが、配管から空気の流出を確認したため、電話で工事監督に連絡。工事監督は、供給槽保守第2室の安全冷却水A系列の2つの手動弁の閉操作を作業員に指示した。・・・当該(B系列の)仕切弁とその近傍にある安全冷却水A系列の弁とを誤認しやすい状況であった」と経緯を説明している。

また、原因については、「工事監督から作業員への指示が口頭であり、操作対象の弁が不明確であった可能性。弁の対象を弁番号で明確に伝えなかった可能性。弁番号の表示が視認しにくい。開閉状態の表示がない。開閉状態が即座に視認しにくい。系列の表示がない」などが指摘され、それぞれに「対策を取る」としている。(https://www.jnfl.co.jp/ja/release/press/2022/detail/file/20220719-1-1.pdf

しかし、この「弁の識別が困難で、誤認しやすい状況にあった」という状態は、ここだけではなく、再処理工場のあらゆる配管において見られることではないのか。このような管理が杜撰な会社に再処理などという危険極まりない事業を任せることなどできない。日本原燃という会社の構造的問題であり、原子力規制委員会は日本原燃㈱の再処理事業認可を即座に取り消すべきである。

遠藤順子