新型コロナウイルス感染症拡大で自殺者増、特に20代女性(NEWS No.565 p07)

2020年3月から2022年6月にかけ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行した影響により国内で増加した自殺者は約8千人に上るとの試算を東京大などのチームが8月17日までにまとめた。最多は20代女性で、19歳以下の女性も比較的多かった。

チームの仲田泰祐・東大准教授(経済学)は「男性より非正規雇用が多い女性は経済的影響を受けやすく、若者の方が行動制限などで孤独に追い込まれている可能性がある」としている。政府の統計から20年と21年の自殺者はいずれも約2万1千人で18、19年より多かったことは分かっていたが、新型コロナの影響の規模は明確でなかった。

日本では失業率が上がると自殺者が増える傾向にあり、経済的困難が要因の一つと考えられている。チームはこれまでの自殺者数の推移や失業率の予測などを基に、COVID-19が流行しなかった場合のこの期間の自殺者数を推計した。実際との比較の結果、8088人増えたと試算した。年代別では20代が1837人と最多で、この年代の自殺者の約3割を占め、COVID-19の影響の大きさをうかがわせた。女性は1092人、男性は745人。19歳以下でも約2割に当たる377人に上り、このうち女性は282人。人とのつながりが少なくなると孤独を苦にした自殺が増えるといわれており、チームは行動制限の影響もあるとみている。

政府の統計で国内の自殺者は10年以降、毎年約500~3千人ずつ減り続けてきたが、20年は11年ぶりに増加に転じ、21年は微減したもののほぼ横ばいだった。男性は12年連続で減少する一方、女性は2年続けて増加。小中高生は20年に過去最多の499人に達し、高止まりが続いている。[i]

また、堀田らは、COVID 19パンデミックが日本の自殺者数に与えた影響を検討するために、2009年1月から2021年9月までの日本の人口動態統計と死亡統計を調べ、2020年7月以降のパンデミック期間に従来のトレンドから予測される値を上回る自殺者が観察されたと報告した。予測値よりも増加が特に顕著だったのは若い女性だった[ii]

COVID-19パンデミックは、日本人の生活様式にも大きな変化をもたらしたことにより、自殺者が増えたのではないかと懸念されている。著者らは従来のトレンドから予測される数値と、パンデミック期間に実際に観察された自殺者数を比較した。著者らは2020年4月から2021年9月までをパンデミック期間に設定して、重回帰分析でそれ以前のトレンドが継続した場合の、人口10万人当たりの自殺率を推定した。

2019年4月から2020年3月までの2019年度の、人口10万人当たり年間自殺率は、男性20.9人、女性8.7人だった。性別ごとに自殺率を予測値と比較すると、2020年4月以降のパンデミック期間では、男性で17.0%(95%信頼区間11.4-22.7%)、女性では31.0%(22.8-39.2%)高くなっていた。月ごとの自殺率が予測値より上昇したのは2020年7月からで、それ以降は男女ともに推定値より高い状態が2021年9月まで続いていた。人口10万人当たりの自殺率は、2020年4月は男性1.65、女性0.62で、2021年4月にはそれぞれ1.96と0.92になっていた。年代別に自殺率を予測値と比較すると、男女ともに増加率が大きかったのは20歳代だった。2020年4月の人口10万人当たりの自殺率は、男性が1.88、女性は0.69だったが、2021年4月にはそれぞれ2.34と1.10になっていた。なお、失業者の自殺率は、2009年からの経時的な変化は推定される予測値と同様だった。これらの結果から著者らは、COVID-19パンデミックにより日本の自殺者は増加しており、特に若い女性で増加率が高かったと結論している。

さらに、宮崎大学の香田らは、COVID-19パンデミック下での自殺の理由を、詳細に検討した結果、男性では主に仕事のストレスや孤独感、女性では家庭・健康・勤務問題が動機と考えられる自殺が増えていることを報告した[iii]。これまで緩やかに減少傾向であった日本の自殺者数が、COVID-19パンデミック下で増加に転じた。特に女性における自殺者数の増加は、これまでにない傾向だ。COVID-19パンデミック下で増加している自殺理由を明らかにし、自殺予防対策を講じることは、公衆衛生上の重要な課題である。この状況を背景に香田氏らは、警察庁が集計し厚生労働省が公表している自殺統計データを用いて、自殺理由の詳細な検討を行った。

2014年12月~2020年6月の約5年間の自殺者データを基に、準ポアソン回帰モデルという統計学的手法を用いて、2020年1月~2021年5月の自殺死亡者数の予測値を算出した。実際の自殺死亡者数が予測値の95%予測区間の上限を超えた場合を「自殺による超過死亡(何らかの原因により通常の予測を超える死亡者数の上昇)の発生」と定義した。また、予測値に対する実際の自殺死亡者数の比を、「自殺による超過死亡割合」とした。自殺の理由は、自殺対策基本法に記載されている7つの大項目(家庭問題、健康問題、経済・生活問題、勤務問題、男女問題、学校問題、その他)と不詳以外の52の小項目別に検討した。

2020年1月~2021年5月の自殺死亡者数は2万9,938人で、うち自殺の理由が記されていたのは2万1,027人(男性が64.7%)だった。前記の自殺理由の大項目7つ全てについて、超過死亡が発生していた月が確認された。最も高い超過死亡割合は2020年10月の25.8%であり、性別では男性が6.1%、女性は60.8%に及んでいた。

小項目別では、男性は失業による超過死亡が発生した月が1回あり、その超過死亡率は42.9%に達していた。そのほかに、仕事の失敗による超過死亡が複数の月で発生し〔超過死亡割合(複数月で超過死亡を認めた場合は最小値~最大値で表記)3.4~6.9%〕、仕事疲れ(同2.0~34.1%)、職場の人間関係(18.6%)、職場環境の変化(8.3%)、孤独感(7.4~25.0%)などの理由による自殺の超過死亡が認められた。女性では、親子関係の不和(4.2~4.5%)、夫婦関係の不和(4.3~39.1%)、子育ての悩み(22.2~40.0%)、介護・看病疲れ(25%)、身体の病気(15.4~20.4%)、うつ病(15.1~34.2%)、統合失調症(26.1%)、アルコール依存症(45.5%)、学友とのトラブル(60%)などの理由による自殺の超過死亡が認められた。

i 共同通信配信記事、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE171160X10C22A8000000/などより

https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2790486

ⅲ https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2788496