オミクロン株流行期においても本邦のCOVID-19による死亡は子供たちの間で「信じられないほどまれ」である。小児に対する新型コロナワクチン接種の努力義務は撤回すべきである。(NEWS No.567 p02)

この秋に本邦では、小児に対する新型コロナワクチン接種が努力義務とされた。それに呼応したかのごとき日本小児科学会は、 9月19日 「5~17歳のすべての小児に新型コロナワクチン接種を推奨します」と考え方を発表した。健康な小児へのワクチン接種は「意義がある」という表現から、「推奨します」という表現に変更しました1)。その理由の中で大きく指摘しているのが、小児患者数の急増に伴い、以前は少数であった重症例と死亡例が増加しているという事実です。感染状況に対する認識として、「国内における10歳未満、10歳代のCOVID-19による死亡報告数はオミクロン株流行前の2021年末においてはそれぞれ0例、3例でしたが、オミクロン株流行後のわずか9か月で、それぞれ21例、10例の死亡が報告されており、20歳未満における累積死亡者数は31例まで増加しています(2022年9月20日現在)」としています2)3)。今回は、本邦でオミクロン株流行期において、小児の死亡者数の推移を分析し、努力義務接種の根拠を考えてみます。

新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(速報値)陽性者数、死亡者数を用いて、オミクロン株流行前と流行期を比較してみます。

1) Ⅰ期:2022年1月4日までの集計分:オミクロン株流行期前

2)  Ⅱ期:2022年1月5日から2022年9月20日までの集計分:オミクロン株流行期

人口は総務省統計局-人口推計(2021年(令和3年)10月1日現在)を用いました。

表1にオミクロン株流行前後での年齢階級別、人口、コロナ陽性者数、死亡者数の比較を示します。

表1

年齢階級別人口(単位千人)陽性者数死亡者数
Ⅰ期Ⅱ期合計Ⅰ期Ⅱ期合計
0-9歳9,42795,0552,636,9702,732,02502121
10-19歳10,937175,7212,589,9942,765,7153710
0-19歳20,364270,7765,226,9645,497,74032831

<1> 死亡率の比較(表2

死亡率は、新型コロナウイルスに感染していない人を含めた全人口のなかで、新型コロナウイルス感染症によって死亡した人の割合です。

表2

Ⅰ期Ⅱ期合計
0-9歳0.000.220.22
10-19歳0.030.060.09
0-19歳0.010.140.15

(対10万人)

死亡率は、全期間を通して0-9歳で0.22(対10万人)、10-19歳で0.09(対10万人)です。

この値は、オミクロン株が流行する前に世界で示された死亡率と同じ程度の値で、非常に低いと考えられる値でした。

英国・イングランドの研究から8)約1,200万人の子ども(18歳未満)の人口で25人の死亡が存在し100万人あたり2人の死亡率を推定しています。5万人の入院あたりICU入院は1人のみでした。子どもが重症化したり、Covidで死亡したりするリスクは非常に低いと確認されています。また、この研究を報告したNature誌9)はCOVIDによる死亡は子供たちの間で「信じられないほどまれ」として報じています。

ランセットに掲載された7カ国にわたる研究10)では、パンデミック中にCOVID-19で死亡した子供の中で100万人に2人未満が死亡したと推定されています。

<2> 致死率(表3

新型コロナウイルス感染症にかかった人のうち、新型コロナウイルス感染症によって死亡した人の割合を言います。

致死率は、0-9歳でⅠ期-0,Ⅱ期0.80,全期間で0.77。10-19歳でⅠ期-01.71,Ⅱ期0.27,全期間で0.36。0-19歳でⅠ期-1.11,Ⅱ期0.54,全期間で0.456でした。致死率は、Ⅱ期オミクロン株流行期では低下を示していました。

表3

Ⅰ期Ⅱ期合計
0-9歳0.000.800.77
10-19歳1.710.270.36
0-19歳1.110.540.56

(対10万人)

以上からは、オミクロン株流行期であっても小児での死亡リスクは、オミクロン株流行期以前と同様に‘incredibly rare’ 「信じられないほどまれ」なものであることが確認されます。

では、小児で死亡者が増加したことはどのように考えたらいいのでしょうか?

表4は年齢階級別にオミクロン株の流行前のⅠ期と流行時期のⅡ期を比較したものです。

0-9歳が27.7倍、10-19歳が14.7倍と他の年齢層と比べて、大きく感染したことが示されています。死亡率や致死率は高くないが、感染が爆発的に増加したための死亡者数の増加と考えられます。

表4 年齢階級別感染者の倍数

Ⅱ期/Ⅰ期
全年齢10.56
0-9歳27.74
10-19歳14.74
20-29歳6.48
30-39歳9.94
40-49歳10.55
50-59歳8.97
60-69歳10.49
70-79歳9.93
80歳以上9.87

小児への感染防止対策こそ求められる対策です。自宅療養を多数生み出し家庭内での感染暴露を増大させ、接触者を分離しPCR検査で早期に感染者を発見し隔離する感染防止策を怠ってきたことの改善こそ求められています。

(たかまつこどもクリニック 高松勇)

参考資料

1)2022年 9月 19日 5~17 歳の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方  日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会

2)2022年 11月 2日 生後6 か月以上 5 歳未満の小児 への 新型コロナワクチン 接種に対する考え方  日本小児科学会 予防接種 ・ 感染症対策委員会

3)日本集中治療医学会 ・ 小児集中治療委員会 . 新型コロナウイルス関連小児重症 ・ 中等症例発生状況速報

4)新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第一報):2022年8月31日現在 国立感染症研究所実地疫学研究センター

5)総務省統計局-人口推計(2021年(令和3年)10月1日現在)

6)厚労省:新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(速報値)2022/9/20時点

7)厚労省:新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(速報値)2022/1/4時点

8) BBC News2021年7月9日

9)Deaths from COVID ‘incredibly rare’ among children (nature.com) 10)The Lancet Infectious Disease March 10, 2021